臆病オメガ、唇奪われ愛を知る

40話 本能と愛情。

　エレベーターで最上階まで上がり、オフィスの前へ到着すると…
　秘書室から出て来た、相模の秘書は一瞬ギョッとするが、サッ…　とオフィスのドアを開き軽くお辞儀をする。

　室内へ入る前に相模は秘書に指示を残す。


「妻と大切な話をするから、しばらく誰も通すな、電話も繋ぐなよ」


　2人がオフィスに入ると、後ろでパタンと秘書が扉を閉めた。



　相模はドーンと大きくて重厚な木製のデスクの上に、マキを降ろし座らせる。

「…エイジさん？」

「さてと我が妻よ、お仕置きのついでに、少し話をしよう！」

　相模は自分の上着を脱いで、無雑作にソファセットへ放り投げた。


「ええ？！　今までのがお仕置きでは無いのですか？！」

　慌ててデスクから下りようとするマキを押しとどめ…
　なぜか相模は上着を脱がせ、ネクタイを解く。


「バカを言ってはいけない、アレは単なる前戯だよ」

　酷薄な笑みを浮かべ、相模はマキのワイシャツのボタンを全て外し、腰のベルトを解いて、ズボンと下着をまとめて膝まで下ろし、革靴を脱がしてフカフカの絨毯の上に置く。


「エイジさん？　朝のオフィスでコレはマズイでしょう？！　僕も発情期は終っているし…」

　ココまでされれば、お仕置きの本番が何かは察しがつき…
　恥かしいと思いつつ、数日間毎日抱かれ続けたマキの身体の方は、勝手に期待して、奥から熱くなり蕩けるような疼きが広がる。

　本格的な発情期は終っていても、番に刺激されれば一時的に発情してしまうのは仕方が無い。


「ソレで？　何故、私に黙って出社したのか聞かせてくれるか？」

　机の上に押し倒し、マキの膝を掴み相模はパカリと足を開く。


「だから言えばエイジさんが出社出来ないように、邪魔するから！！」

　自分の秘部が、相模の熱心な視線に曝され、マキは羞恥で顔を背けた。


「私はカズヤが居なくなるまで、君にはホテルで大人しく待っていて欲しかったダケなんだ」

　マキが顔を背けたコトが気に入らず…
　グッ…　と顎を掴み、相模は強引にマキの視線を自分に戻した。


「ソレならそうと、言ってくれれば！　エイジさんが何も言ってくれないから！」

　大きな手で顎を掴まれ、痛くは無かったが、少しムッとしたマキは…
　相模の手をパシッ…　と音を立てて振り払った。


「君に嫌な思いをさせたくなくて、言わなかった…　だが、こんなコトなら、先に言えば良かったな」

　手を振り払われて、傷ついた顔をする夫に少しダケ罪悪感を感じる新妻。


「アナタの配慮は嬉しいです、でも…　何も知らされずにされると、イライラします！　コレなら嫌な思いをしても、ハッキリ理由を知っていた方がマシです！」

　キッ…　と睨んで両手を伸ばし、マキは相模の頬に触れた。


「確かに君の言うとおりだ、君は経験を積んだ賢い大人へと成長した、けっして弱い人間ではない」

　頬に触れたマキの手を取り、相模は掌にキスをする。

「その通りです！　無知で無力なお姫様扱いをするのは、止めてください！」

　アナタの亡くなった最初の奥さんより、ずっと僕は大人です！　と言いたかったが、マキは言わなかった。


「悪かった！」

 
　番を全力で守ろうとするのは、アルファの本能であり、相模の行動はアルファなら、当然のコトだった。

　
　だからこそ、その本能を曲げてまで、マキに折れて謝るのは…
　マキに対して、相模の並々ならぬ、深い愛情があればこそなのである。




　そのコトをマキはまだ、知らない。