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66話 王と王太子

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 ヒトコトで言うと "豪快" そんな光景であった。

 国王の身体が頭から足の先まで、魔力の大量投入で光り輝いていたのだ。

 少し目が良い者から見れば、まさに治療師3人分相当の魔力を、アイルがたった一人で操る姿に、恐れ戦いた・・・

 チュルミヌ伯爵も恐れ戦く1人だった。

 アイルは、最も危惧していた血の道に出来た小さなこぶを消すために、頭の中から治療を始めた。

<知識や記憶を溜める場所には、絶対に触れないように注意して… 間違って触れれば、生まれたばかりの赤子のようになってしまう!>

 治癒魔法で人間が不老不死を実現出来ない理由である。

 頭の中の記憶を司る部位を再生すると、記憶が綺麗に消えてしまうからだ。

  

 その後一気に、血の道の劣化を再生しつつ、狭くなって詰まってしまった部分も正常な太さに戻してゆく。

 やはりいくつかの部位で道が破れ、出血したが、アイルは動揺せず、冷静に対処していく。

 いつの間にか、フジャヌとパダム、王太子もアイルの向かい側に来て、その様子を全て観察していた。

 血の道の次は内臓器官、循環器から消化器、呼吸器と… 順番に再生し筋肉に筋…感覚器官… 最後に生殖器も治療し、魔力の投入を止め…

 元々衰弱していた王に負担をかけないよう、アイルは眠りの繭で包み2時間ほど後に目覚めるようにした。

 青白かった顔に血の気が戻り、国王の頬は薄っすらと赤みが差し、スーッ… スーッ… と、気持ちよさそうな寝息が聞こえた。

 向かい側に立つ3人も、ホッと胸を撫で下ろす。


「ふう~っ…」

 大きく息を吐き、アイルがフジャヌを見上げると…



「オレに杖を貸してくれ、ついでにお世継ぎ問題も解決するから!」

 ニヤリとフジャヌは笑い…

 アイルもニコニコと笑いながら、聖女クニンの杖を渡す。


 
 フジャヌがこんなコトを気軽に言えるのも…

 アイルが個人ではなくオバット侯爵家に杖を与えて欲しいと言ったからだ。



 パダムもフジャヌの考えを読み取り、ニヤリと笑いながら王太子を羽交い絞めにした。

「ええ!? 何ですか兄上!?」

 流石に暴れたりはしなかったが、王太子は甲高い声で叫ぶ。

 広間中の参列者たちが今度は何が始まるのだ? とざわつくが誰も止めようとはしなかった。


「まぁまぁ王太子殿下、私の治療が嫌だと言うのでしたら、アイルに生殖器の治療をさせますが?」

 フジャヌは隣に立つ王太子に、ヒソヒソと耳打ちし、下腹に手を当てる。

「なっ!!!」

 まだ18歳の王太子はアイルを見つめ、真っ赤になって固まり黙り込む。


「良く考えてみろスカラン! 皆の前でお前が治療を受ければ、大臣たちも父上もみんな揃っているから、間違いなく伝わるだろう? 私を担ぎ出そうと思う奴を封じ込めるでは無いか」


 杖から引き出された魔力が、フジャヌの手から王太子の身体へ一気に流れ込み、下腹を包む。

「ううわわあぁぁぁぁぁぁ―――っ!!!」

「王太子殿下、大丈夫ですよ… 男性器のコトなら私よりもお兄様の方が適任ですから」
 慌てる王太子を向かい側からニコニコと笑いながら見守るアイル。

「ひうっ…!」

 美聖女アイルが自分の男性器の治療を、全て診ていると気づき、身体が弱く、どちらかというと奥手の王太子は気を失いそうな程の羞恥に襲われる。


 王太子の下腹を包む光が、ゆっくりと上へ上って行くと心臓を包みフジャヌは治療を終える。

「ついでに痛んだ胃を修復して、心臓の弁の動きを良くし、壁の穴を塞いだので、息切れも少なくなりますからね」

 パダムとフジャヌはニヤニヤと笑い、王太子の股間の膨らみを見た。

「お前の妻もきっと寝室で大喜びするぞ! おおっと、さっそく猛り出して来たな?! 良かったなスカラン!!」

「はあうっ…っ!!」

 今にも泣き出しそうな王太子。

 パダムとフジャヌ、賢くて有能な男たちだが、少々ガサツな気が強い傾向にある。

 けして、王太子を2人で虐めているワケでは無い。



 少し離れた場所から様子を見ていたハンガットは、王太子の心情を察し気の毒そうに目尻を下げた。






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