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61話 晩餐会3
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優秀な治療士を輩出して来た、オバット伯爵家と並ぶ治癒魔法の名家チュルミヌ伯爵家の一派にアイルはジロジロ睨まれ…
「オバットのふしだら娘が、王子を誑かした」
「王子も王子だ、簡単にふしだら女に引っ掛かるなど、やはり異国育ちだから道理を知らぬようだ…」
陰口が聞こえ、アイルはビクリッと震え身体を強張らせた。
アイルを挟んでフジャヌの反対側に立つ、クルスイとブラットにも陰口が聞こえ息を呑む。
オバット伯爵家の一派に聞こえるよう、故意にチュルミヌ伯爵は陰湿な暴言を吐いたのだ。
扇子を開き青ざめた顔を隠し、アイルは背中を丸め、下を向いて前に立つ騎士の足を見た。
<申し訳ありません… パダム様、私のせいでパダム様まで…!!>
水色の瞳から涙が溢れないように、ギュッと閉じて耐えた。
隣に立つフジャヌが、パンッ… と大きな音を立ててアイルの華奢な背中を思いっきり叩いた。
「きゃっ…!!」
小さな悲鳴を上げて、アイルは顔を上げフジャヌを驚愕の眼差しで見た。
前に立つ騎士や、クルスイとブラット、フジャヌの向こう側に立つ、チュルミヌ伯爵家一派も何事かと振り向いた。
「しっかりしろアイル、治療師の誇りを思い出せ! お前はパナス・ダラム様の呪毒を浄化し、見事マンティコアの瘴気を綺麗に祓ったのを忘れたのか?!」
「お兄様… でもっ!」
「良く聞けアイル! 王子殿下の魔獣化を防ぎ、その尊きお命をお救いしたのはお前だろう?」
チュルミヌ伯爵家の一派はギョッとした顔をして、フジャヌとアイルを凝視している。
フジャヌもチュルミヌ伯爵家の一派を牽制する為、故意に聞こえるよう、話しているのだ。
周りに立つ騎士たちも皆、耳を傾けている様子。
「でも、アレはお兄様の知恵で… 本当に奇跡としか、パダム様の元々の強さがあればこそで…」
ぽそぽそとアイルは自信無さげに、扇子で口を隠しながら答える。
「王都の治療師全員が見放した、凶悪な呪毒を打ち込まれた怪我を、諦めずに治療を続けたお前を… 王子殿下が側に置きたいと望まれても不思議なコトでは無い!」
「お兄様… 私は本当にソレで良いのでしょうか?」
堪えていた涙が、アイルの瞳から溢れ出してしまった。
「良いに決まっている!!」
涙を零す水色の瞳を、同じ輝きを持つフジャヌの瞳が、真っ直ぐに見つめた。
「アイル様はご存知ないかも知れませんが…」
コレだけは言わせてくれと、言わんばかりにクルスイが口を挟んだ。
「・・・・・・?」
溢れた涙をアイルは慌ててハンカチで拭いながら、クルスイの顔を見た。
「パナス・ダラム様が、先の魔獣退治で大怪我を負われた時、大臣方に側近として付けられた王立騎士団の騎士たちは、チュルミヌ伯爵家の救護テントへ、王子殿下を運んだのです」
怒りを抑える為に、クルスイは拳を握りながらアイルを見つめた。
「オバットのふしだら娘が、王子を誑かした」
「王子も王子だ、簡単にふしだら女に引っ掛かるなど、やはり異国育ちだから道理を知らぬようだ…」
陰口が聞こえ、アイルはビクリッと震え身体を強張らせた。
アイルを挟んでフジャヌの反対側に立つ、クルスイとブラットにも陰口が聞こえ息を呑む。
オバット伯爵家の一派に聞こえるよう、故意にチュルミヌ伯爵は陰湿な暴言を吐いたのだ。
扇子を開き青ざめた顔を隠し、アイルは背中を丸め、下を向いて前に立つ騎士の足を見た。
<申し訳ありません… パダム様、私のせいでパダム様まで…!!>
水色の瞳から涙が溢れないように、ギュッと閉じて耐えた。
隣に立つフジャヌが、パンッ… と大きな音を立ててアイルの華奢な背中を思いっきり叩いた。
「きゃっ…!!」
小さな悲鳴を上げて、アイルは顔を上げフジャヌを驚愕の眼差しで見た。
前に立つ騎士や、クルスイとブラット、フジャヌの向こう側に立つ、チュルミヌ伯爵家一派も何事かと振り向いた。
「しっかりしろアイル、治療師の誇りを思い出せ! お前はパナス・ダラム様の呪毒を浄化し、見事マンティコアの瘴気を綺麗に祓ったのを忘れたのか?!」
「お兄様… でもっ!」
「良く聞けアイル! 王子殿下の魔獣化を防ぎ、その尊きお命をお救いしたのはお前だろう?」
チュルミヌ伯爵家の一派はギョッとした顔をして、フジャヌとアイルを凝視している。
フジャヌもチュルミヌ伯爵家の一派を牽制する為、故意に聞こえるよう、話しているのだ。
周りに立つ騎士たちも皆、耳を傾けている様子。
「でも、アレはお兄様の知恵で… 本当に奇跡としか、パダム様の元々の強さがあればこそで…」
ぽそぽそとアイルは自信無さげに、扇子で口を隠しながら答える。
「王都の治療師全員が見放した、凶悪な呪毒を打ち込まれた怪我を、諦めずに治療を続けたお前を… 王子殿下が側に置きたいと望まれても不思議なコトでは無い!」
「お兄様… 私は本当にソレで良いのでしょうか?」
堪えていた涙が、アイルの瞳から溢れ出してしまった。
「良いに決まっている!!」
涙を零す水色の瞳を、同じ輝きを持つフジャヌの瞳が、真っ直ぐに見つめた。
「アイル様はご存知ないかも知れませんが…」
コレだけは言わせてくれと、言わんばかりにクルスイが口を挟んだ。
「・・・・・・?」
溢れた涙をアイルは慌ててハンカチで拭いながら、クルスイの顔を見た。
「パナス・ダラム様が、先の魔獣退治で大怪我を負われた時、大臣方に側近として付けられた王立騎士団の騎士たちは、チュルミヌ伯爵家の救護テントへ、王子殿下を運んだのです」
怒りを抑える為に、クルスイは拳を握りながらアイルを見つめた。
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