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23話 王都までの旅
しおりを挟む馬車にガタゴトと揺られながら、 カチャンは、エナックの子供たちに餞別で貰った、イノシシノ形の石や馬形の石を、座面に並べ戦わせながら、自分は馬車の床にぺたりと座り遊んでいた。
ペチャクチャと、何やら独り言を言いながら遊ぶカチャンを見下ろし、アイルはパダムと兄フジャヌに聞いた話をじっくりと考えた。
兄は療養後すぐのパダムの為に用意した馬車に、1人で分乗している。
結局、パダムは一緒に連れて来られた、自分の愛馬に騎乗し、さっさと先に言ってしまったが…
『王都に着くまでに、お前には考えなければならないコトが、あるだろう?』
そう言って、あえてアイルと別々の馬車に乗ったのだ。
たとえ護衛騎士が付いていても、貴族の娘を付き添い無しで旅をさせるワケには行かないと、パダムと共に先に行かず、フジャヌはアイルと王都までの旅を続けているのだ。
あの短い時間で、アイルはココ10年分ぐらいの、刺激的な知らせを、一気に凝縮して聞いたから、今も心は混乱状態のままだ。
カチャンが生まれてから、高齢の大叔母と、田舎でのんびり平民として暮らしていたから…
近くの村の若い男の中には、カチャンも一緒に引き受けるから、結婚しようと好意を寄せてくれる人もいた。
<その男性と生きて行くのも、良いと一時は思っていたが…>
男性の家族や、村の若い女性たちに猛反対され、アイルは貴族たちから弾き出された、ふしだら女だと陰口を叩かれ、男性を誑かしたとまで面と向かって罵られた時…
アイルは女性として幸せになるという、僅かな希望を、全て捨てた瞬間だった。
<その私を欲しいと言ってくれた… あの方は何もかも理解して、難しくても妻にすると言ってくれた!!>
身体中に熱いモノが駆け巡り、幸せで死にそうになった。
だが、その次の瞬間には、優しい少女ブラヌの笑顔がアイルの胸に浮かび、パダムは彼女の夫になる人なのだと、背中が冷やりとした。
「それに、パダム様が王家の直系筋の方だったなんて…」
ポツリとつぶやいた、アイルの言葉に反応し、カチャンが不思議そうに見上げるが、スグに興味を失い、今度は馬形の石にイノシシノ型の石を乗せて、パカパカと擬音を自分で入れながら座面の上を歩かせる。
<パダム様に求められるのなら、私は応え続けたい… でもそうするコトで傷つく人がいるかと思うと…>
婚約をした男女が、男性の都合で婚約解消や破棄に繋がった場合でも、男性を繋ぎ止められなかったと、女性側が傷モノ扱いをされるのは、貴族の間では常識だ。
ソレは平民の間でも、アイルの村人との経験から見ても、ほぼ同じである。
「パダム様は穏やかなブラヌ様を、気に入らない様子だった… だからと言って…」
ブラヌとの婚約を解消したとすれば、傷つくのは王子の身分があるパダムではなく、ブラムの側だ。
<あの優しい少女が… 今はもう立派な淑女へと成長しているだろうブラヌ様が、何の非も無い人が、女性の幸せを諦めるコトにでもなれば…>
誰かを犠牲にして、自分が幸せになれる程、アイルは強くないのだ。
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