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108話 結婚の前に…4
しおりを挟むアルセはティエーラの竜にしがみつかれて、涙目になっているマンサナをなだめ…
「ごめん… マンサナ! もう少しだけ、我慢してくれる?! 実はエスパーダに… 今まで僕がティエーラの竜が視えていたことを、黙っていたんだ…」
「ううっ… もう! わかったわよ! 説明するのが難しいことは知っているから! 子供の頃、私が魔モノが視える話をした時も、お祖父様しか信じてくれなかったし… アルセがエスパーダ様に言わなかった気持ちはわかるから!」
「ごめんね、マンサナ!」
アルセは初めてエスパーダに会った時から、グラーシア公爵邸を抜け出した時までの、ティエーラの竜とのやり取りを、正直にエスパーダに話した。
ずっと腕組みをして、アルセの話を聞いていたエスパーダは… アルセの話が終わると、難しい顔をして口を開く。
「…襲撃を受けて私が胸を刺された時… 傷を再生させる力をえるために、ティエーラの竜に支配された私は、君から力を奪い取ったのをおぼえているか?」
「ああ、はい… あの時、僕はすぐに気を失ってしまって…」
「うん… 普通なら死んでもおかしくないほどの力を、私は君から奪ったはずなのに… 君は… 何ごともなくあの後、目覚めた…」
「はい、僕にもマンサナほどではありませんが、普通の人よりは魔リョクが豊富だと… ティエーラの竜に教えられました」
「なるほど… あの時、感じた疑問が、ようやく解けた気がする… その魔リョクがあるから、君はティエーラの竜を視ることができると言うんだね?」
大きく2回うなずいて、エスパーダは腕組みをといて苦笑した。
「はい、エスパーダ様… 僕の話を信じてくれますか?!」
「うん、君の話は信じるが… 正直、魔モノが視えるという感覚がわからない」
「ええっとぉ… それはですねぇ…」
やっぱり、人に理解してもらうのは難しい!
エスパーダが出した答えを聞き、思わずアルセが顔をしかめると…
「だが、私も頭の中でティエーラの竜がさわぐ声を、君に説明してその感覚を、理解してもらうのが難しいことを知っている…」
「ああ、はい……?」
「つまり、私が言いたいのは… これはお互い様ということだと思う…? 違うか?」
「なるほど!」
わぁ… なんか理解が早いというか… さすが、エスパーダ様! こんなことなら、もっと早く話していれば良かった!
ニコッ…! と笑い、アルセはエスパーダに抱きつき… 唇にキスが欲しくて、顔を上げて背伸びをすると… エスパーダはチュッ…! とアルセの希望どおりに唇にキスをする。
2人で甘い空気をただよわせ、微笑み合っていると…
痺れを切らしたマンサナが、背後で怒鳴った。
「ねぇ2人とも!!! そろそろ、私の方を何とかしてくれないかしら?!」
「……ああ、ごめんねマンサナ!」
忘れてた! もう… エスパーダ様が魅力的すぎるから、いけないんだよ?!
アルセは赤い顔で、パッ…とエスパーダからマンサナに視線をうつす。
「冗談は抜きにして… こんな風にずっとこの白銀トカゲに抱き付かれていたら… 私だけ、婚姻の儀に参列できないわ?! 本当にどうしたら良いの?!」
「確かに、そうだね… ティエーラの竜は何と言っているの?」
不安そうにするマンサナに… アルセはエスパーダと甘い気分でイチャイチャしていた自分を恥じる。
「ずっと“魔リョクをよこせ” …と言っているけど?」
「だったら、その通りにするのが一番だけど… どうする? 少しだけあげてみる?」
「ど… どうやってやるの?!」
「それはエスパーダ様に、おまかせするしかないよ」
身体の支配権をエスパーダ様が、ティエーラの竜に渡さなければいいけないから… うう~ん……
アルセとマンサナは2人そろって、紅玉色の瞳でエスパーダを見つめた。
「マンサナ嬢が、それで良いなら… 私はかまわないが…?」
エスパーダの言葉と意志に反応して、ティエーラの竜がマンサナから離れ… エスパーダのもとへもどる。
「私にくっ付いて来ないと約束できるなら、トカゲに力をあげても良いわ?!
マンサナが答えると… エスパーダはマンサナの前に立つ。
金色の瞳が獣のようにギラリッ… と光り、マンサナの華奢な肩にエスパーダは手を置いた。
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