竜血公爵はオメガの膝で眠る～たとえ契約結婚でも…

106話 結婚の前に…２ エスパーダside

　唇を解放すると、エスパーダは自分の膝ひざにのせたアルセをギュッ…　と抱きしめた。
　2人そろってハァ―――ッ…　と大きなため息をつき、顔を見合わせる。


「アルセ！　その…　私と…　私と…　結婚してくれるか？」

「はい！　エスパーダ様！　あなたと結婚します！」

　恐る恐る…　緊張で顔を強張こわばらせてエスパーダが求婚すると…　紅玉色ルビーレッドの瞳にキラキラと光る涙を浮かべて、アルセは嬉しそうに笑い承諾しょうだくした。

「そうか、良かった…　良かった！」
　ああ、本当に良かった！　アルセの愛をうたがったことはないが…　情の深いアルセなら私をすてることも、ありえると思っていた。
　１年後に私のもとへ戻ると、手紙には書いてあったが…　アルセが本当に子供を置きざりにできるとは、とても思えない……　だからアルセ、こうして無事に会えて本当に嬉しいよ！
　それに何もできなくても、出産の時にそばにいられる！　
　
「ずっと…　お祖父様に説教されていました…　どんな理由があっても、子供の父親を奪ってはいけないと…　ティエーラの竜のことも、子供自身に決めさせるべきだと」

「うん…」

「僕が…　エスパーダ様なしの人生なんて、ありえないと思うように…　子供にもエスパーダ様が必要だと、少しずつ思うようになって…」

「ありがとうアルセ…　私の子どものために、たくさん1人で考えて、悩んでくれたのだね？　ありがとう…　アルセ」
　私にもアルセが必要だ！　私もアルセなしの人生なんて、考えられない！　本当に怖かったよアルセ！　もう２度と会えいないのではないかと…　本当に…　怖かった！



　廊下側からコンッ…　コンッ…　コンッ…　と扉がたたかれ、返答を待たずにガチャッ…！　と開いて、誰かが部屋に入ってきた。　　　


「お待たせ、綺麗な花嫁さん～！　お茶を持って来ましたよ～！」
　明るい声で話しながら従姉のマンサナが入ってきたが…　エスパーダの膝ひざに座り甘えるアルセの姿を見て、ピタリッ…　止まり、マンサナはあわあわとその場で顔を真っ赤にする。　

「ああ、これはマンサナ嬢、失礼した！」
　アルセの信頼する従姉とはいえ、さすがに未婚のオメガ女性に…　この状況を見せるのは、刺激が強すぎたな…？　可愛そうなことをした…

　アルセとよく似たマンサナが、まっ赤になって部屋の真ん中で固まる姿を見て…　エスパーダもアルセの唇を奪うことに夢中になった自分に恥ずかしさを感じ、頬ほほをうっすらと赤くする。

「あっ…　マンサナ？！」
　アルセも顔を真っ赤にして、エスパーダの膝ひざからあわてておりようとするが…

「おっと…　アルセ…？！」　　

「わわわっ…？！　腰のベルトが…、引っかかってる？！　国宝級のディグニダド伯爵家の家宝を壊したらどうしよう？！　ひゃあぁぁ～っ？！」

　伯爵夫人が仕上げに付けてくれた、“花嫁の飾り”の腰に付けた金のチェーンベルトが、エスパーダの剣帯ベルトの金具に引っかかり、アルセは膝から下りるのに、もたもたとてまどってしまう。


　アルセとエスパーダがもたもたとしている間に……


「もう、いやあぁぁぁ―――っ！　何なのよ？！　この白銀トカゲは？！！！」


　キイィィィ―――ッ…　とマンサナがふたたび、さけびながらヒステリーを起こす。