103 / 114
101話 選択2
しおりを挟む従姉のマンサナから、ディグニダド伯爵邸にエスパーダが来たと聞き… アルセは動揺し、手に持っていた熱い薬湯が入ったティーカップを、絨毯の上に落としてしまう。
「うわっ…?!」
あわてて屈んで、アルセはカップをひろうが、薬湯はぜんぶ絨毯の上にこぼれ染みをつくっていた。
「ああ、もう…! どうしよう… どうしよう… どうしよう……」
「やだっ… アルセ、大丈夫?! 火傷しなかった?!」
マンサナもあわてて祖父が座る寝椅子のそばに来て、染みが出来た絨毯の上に、しゃがみこんだアルセの肩に触れる。
「どうしよう…?! どうしよう… マンサナ、どうしよう?! 本当にエスパーダ様が来たの?! 本当は、グラーシア家の他の人が、来たのではないの?!」
だって… エスパーダ様が来るわけないよ!! 僕に会いに… 来るわけがないんだから!! だって僕と会ったら… 僕のお腹に子供がいると、知られてしまうよ?! そうなったら、僕はいったい、どこへこの子を隠せば良いの?!
まっ青な顔で、アルセは自分の大きく丸くなったお腹を、守るように両手でかかえた。
「間違いなく… アルセの“エスパーダ様”だよ…? だって自分でそう言っていたし… それに、アルセが言っていた、白銀のトカゲが一緒にいたもの…?」
エスパーダが到着しマンサナが応対すると… いきなり顔の前にティエーラの竜が飛びだしてきた。
アルセと同じく、他人には見えない魔モノが視えるマンサナは、ティエーラの竜に驚いて、その場でドスンッ… と尻餅をついてしまったのだ。
「うううっ…… どうしよう?! どうしよう?! 何で来たの? エスパーダ様は… 何で…?!」
動揺するアルセを見下ろしながら… 祖父が口を開く。
「マンサナ、アルセの“番”をここへ連れて来い!」
「え?! でも、お祖父様……」
マンサナは心配そうに、動揺するアルセをチラリと見た。
「良いから、この部屋に連れて来い! アルセの“番”がどんなやつか、見てみたい! 連れて来い、マンサナ!」
「でも… アルセが……」
「連れて来い、マンサナ! “番”が来たというのなら、アルセが嫌だといっても、会わなければならんのだ! ここに連れて来い!」
「はい…」
心配そうに、もう一度アルセを見てからマンサナは、祖父の部屋を出て行く。
「どうしよう… どうしよう… エスパーダ様を苦しめてしまうよ… 僕のせいで! 僕のせいで! ううっ… ううっ… エスパーダ…様…」
薬湯で染みが出来た絨毯の上に、ペタンッ… と座り込み、アルセはグスッ… グスッ… と涙をこぼす。
妊娠をしてから身体が変化し… 以前よりもアルセは涙もろくなり、最近は少しの動揺で、泣いてしまうことが多くなった。
「アルセ、お前ひとりで… 子供と“番”の将来を勝手に決めてはいけないのだよ、わかるか? 決めるなら“番”と子供と話し合って決めなさい」
「でも… お祖父様…?」
「バカ者、子供の前でなさけなく、泣くな! いつまでそんなところに座っているんだ?!」
「ううっ……」
グスッ… グスッ… と幼子のように鼻をすすりながら、アルセはノロノロと腰をあげ、椅子の上に座った。
「私がうまく、婚姻の儀をあげられるように、話をつけてやるから、心配するな!」
祖父はシワの入った手をのばし、アルセの赤と金が混じる艶やかな髪をなでた。
「私にまかせておけ! すぐに結婚させてやるから…」
「お祖父様……」
17
お気に入りに追加
403
あなたにおすすめの小説

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら
キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。
しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。
妹は、私から婚約相手を奪い取った。
いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。
流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。
そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。
それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。
彼は、後悔することになるだろう。
そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。
2人は、大丈夫なのかしら。

金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる