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98話 たどり着いた場所
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ジャガイモの皮をむき終わると、コロリとバケツに入れて、アルセは次のジャガイモを手に取り、同じように料理用の小さなナイフでシャリシャリと皮をむく。
「ふふふ… アルセもナイフの使い方が、だいぶ上手になったわね?」
アルセと同じ紅玉色の瞳を持つ、若いオメガの女性が、綺麗に皮をむいたバケツの中のジャガイモを手に取り、ニコリッ… と笑った。
「まぁね! いつまでもマンサナに、ガミガミと使えないやつだって、言われたくないからね!」
「もう! ガミガミなんて言ってないでしょう?!」
「あはははっ!」
次のジャガイモの皮も、手ぎわよくむき終え、コロリとバケツに入れると… アルセは母方の従姉のマンサナを見あげて笑った。
アルセがエスパーダの元を逃げ出してから、8ヵ月が過ぎようとしていた。
「頑張るのは良いけどさぁ~ あんまり無理しちゃだめだからね?」
「わかってるよ、マンサナ! もう大丈夫だから… 最近は調子が良いし!」
「本当… お腹に赤ちゃんがいるのに、無茶するんだから! 王都からこのディグニダド伯爵家まで、どんだけ遠いと思っているの? あんたは学園で勉強したくせに、本当に世間知らずなんだから!」
亡くなった母方の実家、ディグニダド伯爵家の領地は王国の一番はしにある、ド田舎だ。
グラーシア公爵邸で医師の診察を受け、妊娠が発覚してすぐに、アルセはクルシジョ子爵家の当主となった従兄のマンダルに会い、支援してもらえるように頼んだ。
『僕はエスパーダ様と愛し合って“番”になったけれど… グラーシア公爵家の濃い血を、エスパーダ様は残したくないんだ… それなのに、僕が避妊薬を飲み忘れてしまって… だから子供をお母様の実家の、ディグニダド伯爵家にあずけたいんだ!』
『アルセ… 子供を隠しても、何の意味も無いと思うぞ? 閣下と話し合ったほう良い』
『あのね、子供をなるべくエスパーダ様や、戦いの場所から離すことに、意味があるらしいんだ… そうすれば、心を病むこともなくなるって… だから僕は1人でやると、決めたんだ! お願いだよマンダルお兄様!』
『うう~んん… わかったよ… お前は言い出したら、人の言うことを聞かないからな… でも、無理はしないでくれよ?』
「・・・・・・」
あの時は、本当にどうしようか悩んだけれど… マンダルお兄様のおかげで、何とかここまで来れたし。
エスパーダ様が僕のところに来ないのも… たぶん僕が、なぜ逃げ出したか… その意味を正確に理解したからだと思う。
やっぱり、これで正解だったんだよ……。
母方の実家ディグニダド伯爵家は、王都から遠く離れているけれど、エスパーダが本気でアルセを捜しだそうとすれば、見つけられない場所ではない。
王弟殿下から、アルセの両親が出会ったときのなれそめを、エスパーダも聞いていたから… エスパーダもアルセの母方の実家を知っている。
「何て顔をしているのよ、アルセ?! また、“エスパーダ様”のことを思い出して、さびしくなったの?」
亡くなった母カンナスやアルセと同じ、紅玉色の瞳を従姉のマンサナは曇らせる。
心配そうにマンサナは隣にすわると、大きくなったアルセのお腹をなでた。
「うん、少しだけさびしいよ… でもきっと、マンサナもエスパーダ様に会えば、僕の気持ちがわかるよ? すごくステキな人なんだ! でも、エスパーダ様を好きになってはダメだからね? 彼は僕の旦那様になる人だから!」
「ふふふ… わかった! わかった! 私は“エスパーダ様”を好きにならない! でも、あの建国神話に出てくる、グラーシア公爵様だもの! ステキに決まっているわ?!」
「ふふふ……」
マンダルに護衛騎士を2人つけてもらい、王都のはしにあるディグニダド伯爵家まで、長い旅をしておとずれたとき… アルセは流産しかけて、危険な状態だった。
その時、朝から晩まで献身的に、世話をしてくれたのが、従姉のマンサナで… アルセは実の姉ようにマンサナを慕っている。
「ふふふ… アルセもナイフの使い方が、だいぶ上手になったわね?」
アルセと同じ紅玉色の瞳を持つ、若いオメガの女性が、綺麗に皮をむいたバケツの中のジャガイモを手に取り、ニコリッ… と笑った。
「まぁね! いつまでもマンサナに、ガミガミと使えないやつだって、言われたくないからね!」
「もう! ガミガミなんて言ってないでしょう?!」
「あはははっ!」
次のジャガイモの皮も、手ぎわよくむき終え、コロリとバケツに入れると… アルセは母方の従姉のマンサナを見あげて笑った。
アルセがエスパーダの元を逃げ出してから、8ヵ月が過ぎようとしていた。
「頑張るのは良いけどさぁ~ あんまり無理しちゃだめだからね?」
「わかってるよ、マンサナ! もう大丈夫だから… 最近は調子が良いし!」
「本当… お腹に赤ちゃんがいるのに、無茶するんだから! 王都からこのディグニダド伯爵家まで、どんだけ遠いと思っているの? あんたは学園で勉強したくせに、本当に世間知らずなんだから!」
亡くなった母方の実家、ディグニダド伯爵家の領地は王国の一番はしにある、ド田舎だ。
グラーシア公爵邸で医師の診察を受け、妊娠が発覚してすぐに、アルセはクルシジョ子爵家の当主となった従兄のマンダルに会い、支援してもらえるように頼んだ。
『僕はエスパーダ様と愛し合って“番”になったけれど… グラーシア公爵家の濃い血を、エスパーダ様は残したくないんだ… それなのに、僕が避妊薬を飲み忘れてしまって… だから子供をお母様の実家の、ディグニダド伯爵家にあずけたいんだ!』
『アルセ… 子供を隠しても、何の意味も無いと思うぞ? 閣下と話し合ったほう良い』
『あのね、子供をなるべくエスパーダ様や、戦いの場所から離すことに、意味があるらしいんだ… そうすれば、心を病むこともなくなるって… だから僕は1人でやると、決めたんだ! お願いだよマンダルお兄様!』
『うう~んん… わかったよ… お前は言い出したら、人の言うことを聞かないからな… でも、無理はしないでくれよ?』
「・・・・・・」
あの時は、本当にどうしようか悩んだけれど… マンダルお兄様のおかげで、何とかここまで来れたし。
エスパーダ様が僕のところに来ないのも… たぶん僕が、なぜ逃げ出したか… その意味を正確に理解したからだと思う。
やっぱり、これで正解だったんだよ……。
母方の実家ディグニダド伯爵家は、王都から遠く離れているけれど、エスパーダが本気でアルセを捜しだそうとすれば、見つけられない場所ではない。
王弟殿下から、アルセの両親が出会ったときのなれそめを、エスパーダも聞いていたから… エスパーダもアルセの母方の実家を知っている。
「何て顔をしているのよ、アルセ?! また、“エスパーダ様”のことを思い出して、さびしくなったの?」
亡くなった母カンナスやアルセと同じ、紅玉色の瞳を従姉のマンサナは曇らせる。
心配そうにマンサナは隣にすわると、大きくなったアルセのお腹をなでた。
「うん、少しだけさびしいよ… でもきっと、マンサナもエスパーダ様に会えば、僕の気持ちがわかるよ? すごくステキな人なんだ! でも、エスパーダ様を好きになってはダメだからね? 彼は僕の旦那様になる人だから!」
「ふふふ… わかった! わかった! 私は“エスパーダ様”を好きにならない! でも、あの建国神話に出てくる、グラーシア公爵様だもの! ステキに決まっているわ?!」
「ふふふ……」
マンダルに護衛騎士を2人つけてもらい、王都のはしにあるディグニダド伯爵家まで、長い旅をしておとずれたとき… アルセは流産しかけて、危険な状態だった。
その時、朝から晩まで献身的に、世話をしてくれたのが、従姉のマンサナで… アルセは実の姉ようにマンサナを慕っている。
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