竜血公爵はオメガの膝で眠る~たとえ契約結婚でも…

金剛@キット

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96話 失踪(しっそう)

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 アルセが置き手紙を残して、いなくなった。

 めずらしくアルセが王宮街へ気晴きばららしに行きたいと言い出し、先代公爵夫人とともに王都で人気のスイーツの店に出かけた時のことだ。

「おかしいわ? 知人がいるからと、アルセが店の奥へ入って行ったけれど… 戻って来ないわ… 何かあったのかしら?」

「確かに、おかしいですね? 見て来ます」
 護衛騎士たちがアルセが入って行った、店の奥へ行くと… そこは裏口へ続いていて… 護衛騎士は店の者に、アルセのことをたずねた。

「さぁ? わかりません」

「何てことだ!!」
 突然アルセがいなくなり、先代公爵夫人と護衛騎士たちが… 『また誘拐された?!』 …とあわてていると…

「グラーシア公爵家のかたですか? 美しい紅玉色ルビーレッドの瞳の… オメガのお客様から、お手紙をあずかっております」
 先代公爵夫人は、店の主人にアルセからの手紙を渡された。

「まぁ、本当にアルセからの手紙だわ?!」
 先代公爵夫人はその場で、アルセの手紙を読んだ。

“勝手なことをしてすみません、お義母様。僕はどうしても、1人で行かなくてはいけない場所があるのです。
どうか心配しないで下さい。
 寝室のサイドチェストの中に、エスパーダ様への手紙があります。渡しておいてください。”





 グラーシア公爵邸に急いで帰ってきた先代公爵夫人は、アルセがいなくなったとエスパーダに報告し店主から受け取った、アルセの手紙を見せた。

「何ですって… アルセが消えた?! 自分から? 何があったのですか、母上?!」

「ごめんなさい! ごめんなさい、エスパーダ! 今のあの子が普通の状態ではないと、わかっていたのに… 私が目を離したから!!」

「アルセは何を考えているんだ? 今はあんなに体調が悪いのに… どうしたというんだ?! ああ、クソッ…! 心配で気が狂いそうだよ、アルセ!!」


 エスパーダはアルセが残していった、自分への手紙を寝室で見つけて読んだ。


“1年だけ、僕に時間を下さい。どうしても僕には時間が必要なのです。必ずエスパーダ様の元へ、戻ると誓います。
 今は何も言わず、あなたから離れることが最良の選択だと思っています。
 ですからエスパーダ様、どうか僕をさがさないで下さい。そして僕をお許しください。
 愛していますエスパーダ様。”

「1年…?! こんなふうに気が狂いそうになりながら… 私は君を待たなくてはいけないのか?! とても耐えられないよ!」


 さがすなと言われて… 不安定な体調と精神状態のアルセを、エスパーダがさがさないはずはなかった。





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