竜血公爵はオメガの膝で眠る～たとえ契約結婚でも…

９５話 不調２

　
　エスパーダの自室で、アルセの診察を終えた医師は、にこやかに微笑んだ。

「やはり、妊娠しておられますね」

「・・・っ」
　ああ、やっぱり…！　

「先日の診察の時は、まだ確信がなかったのでお伝えしませんでしたが、今度は間違いありません、アルセ様…　おめでとうございます！」

「そ…　そうですか…」
　誘拐されて瀕死ひんしの状態だった僕は、避妊ひにん薬を飲むひまなんてなかったから…　ティエーラの竜はそれを知っていて、エスパーダ様の心を支配し、身籠みごもらせようと僕を犯した…！！　
　夢の中でティエーラの竜に犯された時、こんなことになるのではないかと、ずっと覚悟していたけれど…　
　
　アルセの顔が青ざめる。

「大丈夫ですよ、アルセ様…　気持ちの落ち込みや身体の不調も、妊娠によるものなので、しばらくすれば安定するはずです、心配ありません」

「・・・・・・」

「きっと公爵閣下かっかも喜ばれますよ！　婚姻こんいんの儀をはやめにおこなわないといけませんね…　でもグラーシア公爵領で行われるのなら、アルセ様の体調を考えて、もう少し先にした方がよろしいでしょう」
　医師は診療しんりょう記録に、今日の診察結果を書き入れながら、いくつかの注意事項をアルセに説明した。

「あの…　先生！　どうかこのことはエスパーダ様には…　言わないで下さい！」

「はい？　ですがアルセ様…」

「どうか…　僕が自分でエスパーダ様に話しますから…　どうかお願いします！」

「ええ、それはもちろん…　アルセ様から伝えられた方が、閣下かっかも喜ばれるはずですから」

「お願いします！」






　診察を終えた医師が帰り、１人っきりになったエスパーダの部屋で、アルセは苦悩のうめき声をもらした。

「ううっ……　どうしよう？！　全部、僕のせいだ！　エスパーダ様は僕と白い結婚をするつもりだったのに…　僕が“番つがい”になりたいと我がままを言ったから！」
　こんな狡猾こうかつなことをティエーラの竜がするなんて…　ああ…　僕はエスパーダ様との約束を破ってしまった！！　僕はエスパーダ様の、一番の味方でなければいけないのに！　一番の裏切り者になった！　

　ジワッ…　と熱くなった目から、また涙がこぼれそうになり、アルセは歯を食いしばって我慢する。

「ダメだよ…　今は泣いてるひまなんて無い！　いっぱい考えないと！　こんな時に、弱虫ではいられないよ！！」
　僕はどうしよう？！　どうすれば良い？？　エスパーダ様のために…　何をどうすれば良い？！


　自分のお腹をおさえて、アルセは必死に考えた。

　望まない妊娠にどれだけ思い悩んでも…　アルセの中に愛するエスパーダの子を、産まないという選択肢しは始めから無いのだ。