竜血公爵はオメガの膝で眠る~たとえ契約結婚でも…

金剛@キット

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94話 不調

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 新聞に書かれたコルティナ侯爵の曝露ばくろ記事に、自分の家族の名前を見つけ… 込み上げてきた悲しみに耐えられなくなり、アルセはエスパーダの前で泣いてしまった。

 泣いてばかりいてはダメだと、涙でぬれた頬を指先でぬぐい、アルセは憂鬱ゆううつな気分を立て直そうと… スゥ―――ッ… ハァ―――ッ… とゆっくり深呼吸をする。


「すみませんエスパーダ様… 僕のせいで、たくさん心配をかけて」
 誘拐されてから、僕は自分の気持ちをうまくコントロールできなくなってしまったから… エスパーダ様は僕のために、領地に戻るのを延期えんきしてくれた。
 僕がこんなことにならなければ、とっくにグラーシア城に帰って婚姻こんいんの儀に向けて、お義母様と準備をしていたはずなのに…… こんなに僕は弱かったなんて… 自分がなさけないよ!

「アルセ… 私はそばにいてくれるだけで、嬉しいよ…?」
 以前よりもせてしまったアルセの背中をなでながら、エスパーダは微笑んだ。



 誘拐事件のすぐ後、グラーシア公爵邸におとずれた従兄弟のマンダルは、父親の愚行ぐこうをアルセに謝罪したあと…

『少しでも父上の代わりに、罪滅つみほろぼしになれば良いのだけど…』
…とマンダルは、アルセとエスパーダの結婚の許可を出した。
(現在は従兄のマンダルがアルセの保護責任を、爵位とともに父親から引き継いでいる)

 すでに家を出て自立していたマンダルは、文官用の寮で暮らしながら王宮で働いていたため、クルシジョ子爵家で何が起きていたのかを、父親が死んで初めて知ったらしい。

『本当にすまなかった、アルセ! 父と弟ムゲーテが犯した罪を、アルセが簡単に許せないのもわかるよ… だけど2人は、犯した罪のばつをすでに受けているんだ』

『そうですね、マンダル兄様…』

 叔父はコルティナ侯爵に殺された。
 従弟のムゲーテは婚約者のリブレと結婚すれば、平民となり貧しい生活をいられることになり…
 リブレと結婚しなければ、父親のいない子を産む母親となる。
 どちらにしても、醜聞しゅうぶんにまみれたムゲーテは、貴族としてまともには暮らせない。

 叔父の葬儀の一件以来、葬儀の参列者たちによって… リブレとムゲーテの醜聞しゅうぶんが社交界をさわがせていた。
 
 自分の婚約者だったアルセを、リブレはムゲーテとみだらな関係になることで裏切り… 
 そのうえ浮気相手のムゲーテが妊娠し、邪魔になった婚約者のアルセを、リブレはにせの醜聞でおとしいれ、卑劣ひれつな行為で周囲の人たちをだました。

 父親のマンディブラ伯爵に、リブレは自分の犯した罪を、すべて知られてしまい…
 激怒した伯爵は後継者を、長男のリブレから次男へと変え… リブレが成人したら、伯爵家からせきを抜き絶縁ぜつえんすると決める。

 リブレは平民となるが… 学園の卒業資格さえあれば、良い就職先を見つけられる。
 まともに働けば、平民の中でも裕福な生活ができるぐらいの、収入をえられるはずだった。

 だがリブレは… 卒業試験に失敗し、卒業資格をえられず退学した。
 収入をえるまともな手段を持たない、元貴族の将来は… 真っ暗闇である。
 



「アルセ?」
 エスパーダは憂鬱ゆううつそうな顔で、うつむくアルセのほほにキスをした。

「はい」

「午後から医師の診察を受けるのだろう? それまで少し、休んではどうだ?」 

「ええ… そうささせて、もらおうかなぁ…?」
 心が不安定になったアルセは、身体にまで不調があらわれてしまい… 先代公爵夫人の助言を聞き、アルセは数日おきに医師の診察を受けることにしていた。

「うん、それが良い…」
 もう一度、チュッ… とほほにキスをして、エスパーダは微笑みながら、アルセを抱いて立ち上がり、寝室へと連れて行く。





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