竜血公爵はオメガの膝で眠る～たとえ契約結婚でも…

９３話 コルティナ侯爵家の末路

　アルセの誘拐事件から一ヶ月後…　王弟殿下の主導のもとでグラーシア公爵家が協力し、コルティナ侯爵家が今まで陰でおこなってきた、悪事の数々がすべて明るみに出た。

　その中には、クルシジョ子爵家の馬車を騎士たちに襲撃させて、アルセの家族を殺したことが判明した。
　他にも未婚のオメガを誘拐し、弄もてあそんで他国へ売る…。
　極悪非道ごくあくひどうな人身売買の罪まであった。
　王国中をさわがせる事態じたいとなった、凶悪事件をいくつもおこしたコルティナ侯爵はすみやかに処刑され、コルティナ侯爵家の領地、爵位、資産のすべてが王家に没収ぼっしゅうされる。

　元コルティナ侯爵の悪事に加担かたんした者も少なくなく…　処刑された貴族は１００人以上にもおよんだ。
　アルセの誘拐を手伝った元侯爵の３男ジャベ、コルティナ侯爵家、家門（親戚）のメサ、ノチェも含まれている。　
　監獄に入れられ、生涯、強制労働の罰を言い渡された者たちの数は、処刑された者たちの３倍以上となった。
　
　元コルティナ侯爵家を実家に持つ現王妃は、みずから身を引き王妃の座から退位し…　息子の第一王子も廃嫡はいちゃくされる。



　アルセはグラーシア公爵邸の執務室で…　
　王弟殿下が指示して書かせた、コルティナ侯爵家がおこなってきた、悪事の曝露ばくろ記事をのせた新聞を読んだ。

　だが…　曝露ばくろ記事をとちゅうまで読むと、アルセは気分が悪くなり…　新聞を自分の膝ひざのうえにおいて、憂鬱ゆううつなため息をつく。

「・・・っ」
　僕の家族まで…　コルティナ侯爵に殺されていたなんて！　それに叔父様も…！　何でここまで、苦しめられなければ、いけなかったんだ？！　何でだよ…？！

「アルセ、顔色が悪いな…　大丈夫か？」
　執務机につき仕事中のエスパーダが、心配そうに声をかけた。

「はい、エスパーダ様…」　
　元気にならないと…　また、エスパーダ様を心配させてしまうよ…　元気にならないと！　元気に………

　エスパーダには大丈夫だと言ったが…　アルセの紅玉色ルビーレッドの瞳から、ポロポロと涙がこぼれ、止まらなくなった。
　声もなく涙をながすアルセを、エスパーダはだまって自分の膝ひざにのせて、いつものように抱きしめる。

　誘拐され、瀕死ひんしの状態になるほどの傷を、コルティナ侯爵に負おわされたが、ティエーラの竜の力でアルセの身体の傷は完治した。
　だが…　アルセが負った心の傷は、簡単には癒いえることは無い。




　コルティナ侯爵の猟犬に、追いつめられた時の記憶に襲われ…　真夜中にエスパーダの隣でさけびごえをあげて、アルセが飛び起きることもあった。