竜血公爵はオメガの膝で眠る～たとえ契約結婚でも…

８８話 救出２ エスパーダside

　離れた場所で待機していた、コルティナ侯爵家の騎士３人が向かって来たが…　グラーシア城の中でも、特に腕利うでききの騎士たち（エスパーダの護衛騎士２人）が難無くたおす。


　その一方でエスパーダは……

「…っく！」
　こいつをいつものように、ティエーラの竜に命を吸わせて簡単に殺すのでは、あまりにも生ぬるい！　少しでも多く痛めつけてやらないと！！

　怒りをおさえられずにエスパーダは、自分の拳こぶしで殺そうと、コルティナ侯爵を殴なぐり続けた。
　

「閣下かっか！　お止めください、これ以上殴なぐれば死んでしまいます！！」
　護衛騎士のサングレが、エスパーダの腕をつかんで、止めに入る。　　

　だが、激烈げきれつな怒りに支配されたエスパーダは、サングレの手を乱暴に振り払って怒鳴った。

「殺して何が悪い？！　私から“番つがい”を盗んだこいつは、絶対に私が殺さなければいけないんだ！！」

「いいえ、エスパーダ様！！　今はその卑怯者ひきょうものを殺すことよりも、もっと重要なことがあるでしょう？！　アルセ様を早く医者に見せるべきです！！」
　サングレはもう一度エスパーダの腕をつかみ…　
　子供の頃、無謀むぼうなことをしてエスパーダが大ケガをした時のように、名前を呼んで怒鳴り返した。

「・・・っ？！」
　ハッ…　と息をのみ、エスパーダはぐったりと横たわるアルセを見た。

「あなたは大切な“番つがい”を裸のまま、いつまで地面に寝かせておくつもりですか？！　あれではアルセ様がかわいそうです！！」

「アルセ…！　ああ、クソッ…　怒りでどうかしていた！！」
　復讐心ふくしゅうしんに我われを忘れていた…　かわいそうに、アルセが血だらけじゃないか！！

　顔のかたちが変わるほど、執拗しつように殴っていたコルティナ侯爵を、エスパーダは放りだした。

「アルセ…！　アルセ！？　すまない、許してくれアルセ！」
　あわてて騎士服の上着をぬいで、エスパーダが裸のアルセをくるむと…　痛みで身体を震わせ、アルセはうめき声をあげてまぶたをうすく開く。

「んんっ……　エス…パーダ…様…？　ううっ……」
　
「むかえに来るのが遅れてすまない！　すぐにグラーシア公爵邸へ連れ帰ってやるから…　少しだけ我慢してくれ、アルセ？」

「・・・っ」
　アルセはエスパーダに小さくうなずいて見せた。
　紅玉色ルビーレッドの瞳からポロリ…　と涙がこぼれ、まぶたが閉じられる。
　苦痛で歪ゆがんだ表情がアルセから消えた。意識を失ったのだ。

　額ひたいにキスを落とし、エスパーダはそっとアルセを抱き上げる。

「ゲス野郎は、私の“番”だと知っていながら、アルセのうなじをかんだようだ！！」

「うなじ以外にも出血しているようですね…　特に腕や足がひどい！　これは、猟犬に噛まれた傷です！」　

　エスパーダはギシギシと歯ぎしりをしながら、地面に転がるコルティナ侯爵をにらみつけた。