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78話 コルティナ侯爵邸
しおりを挟むコルティナ侯爵邸へ到着し、エスパーダは家主にことわりもなく玄関ホールへはいり、アルセの気配はないかをさぐった。
「・・・っ」
ここには、アルセはいないようだ… 少しもティエーラの竜が騒がない… 私がアルセに触れただけで、身体の奥で血が騒ぐような感覚がいつもあるのに… 反応しないのは、別の場所にアルセが連れて行かれたからに違いない!
「ど… どちら様ですか?!」
運悪くちょうどそこに居合わせた、男性ベータの使用人がおびえた顔で、いきなり邸に入って来たエスパーダにたずねた。
「グラーシア公爵のエスパーダだ! そう言えばこの家の主人もわかるだろう!!」
相手を脅す気などなかったが、エスパーダが持つ極めて強力なアルファの威圧感が、目の前の使用人をいっきに追いつめた。
「ヒィッ… あああっ……!」
使用人はエスパーダの迫力に負け、その場にドスンッ… と座り込んでしまった。
「コルティナ侯爵はどこにいる?!」
「い… いません…! 旦那様は… 外出して… おります…!」
床に座り込んだまま、使用人はエスパーダの質問に答え、ずるずると後ずさる。
「どこへ行った?!」
「わ… わかりません!!」
「誰ならわかる?!」
「さ… さっ… 先程まで、ご子息のジャ… ジャベ様とお話を… されていたので…」
「そいつはドコだ?!」
「ご友人と一緒に… ご自分のお部屋に… いらっしゃるかと… 思われます…!」
「今すぐ、そいつの部屋まで、案内しろ!!」
「で… でも…?!」
「私はグラーシア公爵だ! 妹の出世で少しばかり、力を持ったばかりの新入りの侯爵とは、格が違うのはわかっているな?!」
王国民なら貴族だけでなく、平民まで… 誰もが知る建国神話に出て来るほど、起源が古い由緒正しき家柄である。
英雄の家系、グラーシア公爵家を、知らないものなどいない。
「は… はい!」
「私は急いでいる! 早く案内しろ!」
エスパーダは、おびえて座り込む使用人の腕を引っ張り立たせた。
ヨロヨロと歩く使用人の後に付いて、エスパーダは護衛騎士2人を連れて、コルティナ侯爵邸の奥へと進む。
「・・・・・・」
ジャベという名は聞き覚えがある… 確か、学園でアルセに嫌がらせをしていた、コルティナ侯爵の息子だったはずだ!
いくらなんでも昼間の学園に、部外者が侵入すれば、学園生たちの目につくはずだ! それが無かったということは… 学園にいても、誰もおかしくないと思う者たちが、アルセを誘拐したに違いない!!
ジャベと言うやつは、絶対に何かを知っているはずだ!!
使用人に案内された、ジャベの部屋の扉を乱暴にあけて室内を見ると… エスパーダとアルセが初めて出会った時に、暴行を加えていたアルファが3人そろっていた。
その顔を見て、エスパーダは確信を持った。
「私の“番”をどこへやった?! 今すぐ返さなければ、お前たちの指を一本ずつ、この手で引きちぎるぞ…?!」
2,3本ほど… 先にちぎって見せてやれば、口が軽くなるかもしれないな?
いくつもの野蛮な考えがエスパーダの脳裏をよぎる。
案内した使用人が、感じていた威圧感などとはレベルが違う、最大級の圧力をエスパーダは、ジャベたちに向けてかけた。
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