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62話 葬儀3 リブレside

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 クルシジョ子爵領にある、田舎の小さな墓地にアルセが入って来た時… 思わずリブレは、久しぶりに見たりんとした元婚約者の姿に、見惚れてしまった。

 そんな自分に気付き、リブレはハッ… と息をのむ。
「・・・っ! クソッ…!」
 アルセの奴… また綺麗になったな?!
 オレに捨てられて、みじめにれてしまえば良いと思っていたのに… クソッ…! オメガのくせに、生意気なまいきでムカつく奴だ!! 

 アルファの中でも、人並み以下で平凡なリブレにとって、元婚約者のアルセは劣等感れっとうかんを刺激する存在でしか無かった。

 リブレがアルセをにらみつけていると… アルセの隣に立つひときわ背が高く、大きな身体の騎士と目があい、逆に睨み返される。
 ギョッ… と驚いたリブレは、あわてて下を向く。

 葬儀そうぎ用の黒い騎士服や、腰に下げた剣にほどこされた、精巧せいこうな装飾などを見ると… アルセの隣に立つ騎士が、かなり身分の高い貴族だと、成人前のリブレにさえ一目でわかった。

「・・・・・・」
 クソッ… アルセの奴…! あの人がグラーシア公爵か?! 何でアルセがあんな人と、一緒なんだ?! どこで知り合ったんだよ?! 何でだよ…?! 

 学園の友人たちからリブレは、少し前に退学した元婚約者のアルセが、社交界デビューをはたし、建国神話にまで家名が出て来る、何かと有名なグラーシア公爵のエスコートで、あちこちの夜会をにぎわせている話を聞いていた。

 初めて話を聞いた時はそれが本当なのか、リブレも夜会に出て、自分の目で確かめたいと思っていたが… 今のリブレは、卒業試験に向けて猛勉強中で、夜会どころではなくなり、そんな話を友人に聞いたことさえ、忘れてしまっていた。
 1歳年下のムゲーテと婚約してから、うるさく注意する人間アルセがいなくなり、日々の勉強をなまけるようになった。
 おかげでリブレの成績は、2ヶ月後の卒業が危なくなるほど、底辺まで落ち込んでいたからだ。

「・・・・・・」
 あの騎士がグラーシア公爵でも、今はアルセのことなんて、どうでも良い! オレには可愛いムゲーテがいるから! これ以上、ムゲーテを泣かせるわけにはいかないからな!

 泣きらした目で、不安そうにリブレを見上げる、ムゲーテを慰めようと、華奢きゃしゃな背中をなでた。 

「リブレ様…」

「大丈夫だ、ムゲーテ…!」
 オレがムゲーテを守らなければ! アルセと婚約していた頃から、オレたちは愛しあっていた…。
 だから、アルセが邪魔で… 邪魔で… ずっとオレたちはムカついていた。
 そんな時にムゲーテがオレの子を、妊娠してしまい… どうやってアルセを追い払うか、悩んでいた時に、ムゲーテの父親がオレたちが愛しあうことを、支援すると約束てくれたうえに、アルセの醜聞しゅうぶんを流せば上手くいくと教えてくれた。
 誰だって、おいよりも実の息子の幸せの方が、大切にに決まっているからな…!
 

「何でアルセあの人… 来たんだろう?!」

「…アルセのことか? 気にするなムゲーテ、あんな奴のことは」

「でも、あの尻軽のせいで… お父様が! 悔しい!」

「ムゲーテ?」

「あいつが、お父様の言うとおりに、コルティナ侯爵様のところに行けば、みんな幸せになれたのに…!!」

「…何の話だ、ムゲーテ? コルティナ侯爵?!」

「リブレ様に婚約破棄されたアルセを、コルティナ侯爵様が愛人に欲しがっていたんだ! なのにあの尻軽は…っ! アルセのせいでお父様は殺されたんだ!」
 ムゲーテのにぎりしめた小さなこぶしが、ひそかに震えていた。

「ムゲーテ?」 
 何でここで、コルティナ侯爵の名前が出て来るんだ?! 侯爵にクルシジョ子爵が殺されただって?! 訳が分からない?! いったい… ムゲーテは何を、言っているんだ?!

 婚約者のムゲーテから、思いも寄らなかった話を聞き、リブレが動揺していると… 
 墓穴はかあな一握ひとにぎりの土を入れ、短い祈りをささげ終えたアルセが、立ち去ろうと背中を向けた。

 その時、ムゲーテが怒鳴り声をあげた。



「アンタのせいだ!! アンタがお父様を殺したんだ!! 尻軽アルセぇ―――ッ!!!」






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