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60話 葬儀

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 クルシジョ子爵家の領地にある、小さな神殿の裏に作られた墓地で… アルセの叔父、クルシジョ子爵の葬送そうそうの儀式がおこなわれた。

 元々、王宮に勤めていた叔父は、人付き合いがうまく社交的だったため… 領地の神殿で簡素かんそに行われた葬儀そうぎにしては、王都から足を運んだ貴族たちが何人も参列している。


「・・・・・・」
 叔父様にはひどい裏切られかたをしたし… 僕とエスパーダ様の結婚に、いつまでも許可を出さないから、ずっと僕は腹が立って仕方なかったけれど… でも、死んで欲しいとは思わなかった。
 いっときは本物の家族だと思っていた人だし… 何よりお父様の弟だし…

 愛人の家から帰宅する途中で、叔父は何者かに襲われ命を落とした。
 集まった参列者たちの後ろに、隠れるようにして、アルセは葬送の儀式をながめる。

 神官は送り出す死者が、天界の神々に気持ちよく受け入れてもらえるように、生前の叔父がどれだけ良い行いをしたかを語り、神を賛美さんびする祈りの言葉で儀式を終える。
 儀式の後は、葬送の儀式に参列した者たちの手で、墓穴はかあなに置かれた棺桶かんおけの上に、土と花を入れてゆく。

 アルセも墓穴のわきに盛られた土を、一握ひとにぎりつかむと… 叔父の棺桶かんおけの上にのせた。
 落ち込むアルセを心配して、葬儀に付いて来てくれた、エスパーダと先代グラーシア公爵夫人も、アルセと同じように、墓穴に土を入れる。

「・・・・・・」
 叔父様… あなたにはエスパーダ様との結婚を、亡くなったお父さまの代わりに、こころよく認めて欲しかった! どうして自分の甥の幸せを、少しぐらい考えてくれなかったの? そんなにコルティナ侯爵にびを売るのが大事だった?! 叔父様のこと、信じていたのに!!

 アルセは、少しずつ土がのせられてゆく棺桶を見つめながら、亡くなった叔父に心の中で文句を言った。

 最期さいごの別れを済ませ、墓穴から離れようとしたアルセに… 突然、かん高い声で誰かが怒鳴った。


「アンタのせいだ!! アンタがお父様を殺したんだ!! 尻軽アルセぇ―――ッ!!!」

「はっ…?!」
 驚いてアルセが背後を振り返ると… 墓穴をはさんだ向こう側で、泣きらした目でアルセをにらみつける、従弟のムゲーテの姿があった。

「止めるんだ、ムゲーテ!」
「ムゲーテ… 皆様がいらっしゃるのよ?! 静かにしなさい」
「だめだよ、ムゲーテ… ここは我慢するんだ!」
 アルセの姿を見つけた従弟のムゲーテは、母親と兄のマンダル… 婚約者のリブレが制止するのを聞かずに… アルセを口汚くののしりはじめる。

「嫌だよ、リブレ様! 絶対に僕は黙らないから!」

「ムゲーテ!!」

「アルセのせいでお父様は亡くなって… 僕とリブレ様の結婚も、ずっと先に延期えんきになった!! アルセがお父様の言うことを聞いていたら、こんなことにはならなかったのに!! アンタのせいだ、尻軽アルセ―――ッ!!!」


 隣にいたエスパーダが、ムゲーテの罵倒ばとうから守るように、アルセの前に立つと、静かに口を開いた

「クルシジョ子爵の令息は、おかしな話をするな? なぜアルセが子爵を殺したことになるのだ?」

 
  夜会の帰りに、グラーシア公爵家の馬車を襲撃しゅうげきさせたのは… コルティナ侯爵で間違いないと、エスパーダは考えていた。

 王国にとって、国境線を守る重要人物である、グラーシア公爵エスパーダを殺そうとするなど… 正気とは思えないことをするコルティナ侯爵は、それほど権力に酔った傲慢ごうまんな人物だった。

 そんな傲慢なコルティナ侯爵なら、アルセを愛人として、差し出す約束を守れなかったクルシジョ子爵を、罰して殺したとしてもおかしくはない。 



 従兄のムゲーテは、自分の父親がコルティナ侯爵に殺されたことを、感づいているらしい。





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