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56話 愛される身体2

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 ガチャ… と寝室の扉が開き、白いシャツに騎士服を着たエスパーダが顔を出した。
 アルセが激しい情交じょうこうで疲れて熟睡じゅくすいしている間に、エスパーダはグラーシア公爵の仕事を、いくつか終わらせてきたのだ。

 前夜の襲撃に関することについて、王都の治安を守る王立騎士団への報告もその一つで、グラーシア公爵邸に訪れた担当の騎士たちと、話をしていたのだ。
 襲撃犯たちの死体を調査したが、やはりコルティナ侯爵へとつながる証拠は、何も出なかったらしい。


 ニコリッと笑い、エスパーダは足早にベッドまで来ると、大きな身体をかがめて、素早すばやくアルセの唇にチュッ… とキスを落とす。

「何だアルセ… もう目が覚めていたのか? ちょうど良かった!」

「エスパーダ様…?」
 ううっ… エスパーダ様は本当にキスが好きだなぁ…? 別に良いけど… 僕も嫌いじゃないし………
 
 ポッ… とアルセの頬が、モモ色に染まる。
 いまだにエスパーダから、突然されるキスに慣れなくて… 挨拶代わりとわかっていても、アルセはすごく照れてしまうのだ。
 
「食事の用意が出来たから、呼びに来たんだ… さっき眠りながら… アルセの腹がグゥ~ グゥ~ ひもじそうにいていたからな!」

 ニヤリと笑い、エスパーダはアルセを揶揄からかった。
 負けず嫌いのアルセは、キッ… とエスパーダをにらみ、揶揄い返そうとする。

「もうぅぅ! エスパーダ様のお腹の方が、絶対に音は大きかったですよぉ?!」

「はははははっ…!!」
 カラカラと楽しそうな笑い声をあげ、エスパーダはベッドからアルセを抱き上げる。

「わぁっ?! エスパーダ様ぁ…?! 何?!」
 
 いきなり抱き上げられて、あわててアルセはエスパーダの首に腕を回してつかまると…
 チュッ! チュッ! チュッ! とアルセの頬にキスを落としながら、エスパーダは寝室の扉に向かった。

「初夜を終えた愛しい妻を、エスコートしているのさ!」

「やっ! 初夜って…… まだ、婚約さえ成立していないのに?!」

 アルセの保護者の叔父から、いまだに結婚を許可するという、良い返事をもらっていないのだ。
 このままだと、叔父の許可をもらうよりも… 数ヶ月後に成人の儀を受け、王国法で結婚相手を自由に選べる資格を、アルセ自身が国からあたえられるのを、待った方が早そうである。

「“つがい”になったのだから、アルセはすでに私の伴侶はんりょだ! 一昨日おとといの夜が初夜と呼んでも間違いでは、ないだろう? いや、すでに昨日の朝だったから… んんんっ…? 初夜とは言えないか?!」
(アルセがエスパーダの寝室へ忍び込んだのが、一昨日おとといの深夜で、2人で話し合い、“つがいちぎり”を結んだ時は、昨日の朝になっていた)

「それは… そうですけど?」

「まぁ、それは置いといて… どちらにしても領地に戻ったら、婚姻こんいんの儀式の後で、周囲の者たちに向けて、もう一度初夜をやるつもりだが?」

「な… なるほど…」

「母上にさっきアルセと“番”になったことを伝えたら、泣いて喜んでいたぞ?」

「ううっ… お義母様がぁ…? 何だか、恥かしくて複雑ですぅ…」
 僕としては、出来ればもう少しだけ、隠しておきたかったというか… まだ未婚だし…? エスパーダ様は少しも、隠す気が無いんだね?

 抱きあげられたエスパーダの肩に、ペタリとおでこをくっ付けて、アルセは真っ赤になった顔を隠した。

「ははははっ…! 可愛いなぁアルセは! 良いじゃないか、私たちのことを聞いて、母上も大喜びだったのだから!」

「そ… それはそうですけど… だって、まだ結婚前だしぃ…? 婚約者とでも… その… 一夜をともにしたら、普通はふしだらだと… 醜聞しゅうぶんになることだから… 僕の場合は、あなたの婚約者でもないのに……?」

「うん… そのことだが、私たちがすでに“番の契り”を交わしたことを、クルシジョ子爵にも報告して、アルセがコルティナ侯爵の愛人になるのは不可能だと、言ってやろうと思う」

「ああ…!」

 オメガは“番”以外の人間を性的に受け入れると、身体が激しい拒絶きょぜつ反応を起こし、最悪の場合、死にいたる。

 つまり今のアルセは… “番”のエスパーダ以外は、誰も受け入れられない身体へと、体質が変化していた。

 ……それでも、“番” 以外の人間に、性的奉仕が役目である愛人になれと言われれば、それは『死ね』と言われるのと、同じことである。


 まともな者ならば、クルシジョ子爵も、コルティナ侯爵も、アルセが死の危険にさらされるとわかっていて、さすがに愛人にしようと無理いはしないはずだと… とエスパーダは考えていた。





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