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49話 エスパーダの告白
しおりを挟む自分の気持ちや覚悟を、言葉で伝えるよりも、アルセは実際に行動で示した方が早いと、エスパーダの目の前で、避妊薬を飲んで見せた。
「僕は今すぐ、あなたに抱かれて… “番” になっても良いです!」
うう… さすがにはっきりと、口に出すのは… 少し、恥かしい! でも、しっかり伝えないと、後悔しそうだから! 僕はあなたと、本当の家族になりたいと、思っているから!
真っすぐ金色の瞳を見つめて、アルセはどんな反応がエスパーダから返って来るのか? …と、ドキドキとしながら待っていると…
ハァ―――ッ… とエスパーダの方も緊張した様子で、アルセの手を取りキュッ… とにぎる。
「アルセ… もう少しだけ、話をしよう?」
「はい」
2人でソファセットの長いすまで行くと、手をつないだまま、並んで腰をおろした。
「今回私が王都へ来たのは、国王陛下から公爵領を侵犯し続ける隣国へ、しっかりと抗議してもらおうと、そのための報告を私自身がすることと… そして、もう一つ… とても重要な用件があったからだ」
「…重要な用件?」
「母上に… 父上が亡くなったことを、家族の私が伝えることだ」
「お父様? …でも、たしかエスパーダ様のお父様… 先代の公爵様は3年も前に、亡くなったと聞きましたが?!」
あれ?! このお邸に来たばかりの頃に、お義母様にそう教えてもらったけど?! 僕の勘違いだった…?
アルセとつないだエスパーダの手に、ギュッ… と力が入る。
「表向きは… そういうことになっている」
「表向き? じゃぁ……」
最近までお父様は生きていたと… 言うことなの?!
「ティエーラの竜は、とても貪欲に力を欲しがる… 頭の中に直接呼びかけて来るんだ! “獲物を殺して、力を奪え” …と…」
アルセとつないだ手とは、反対側の手をあげて… エスパーダは自分の頭をトンッ… トンッ… と指先でたたく。
「・・・・・・」
貪欲なのはわかる気がする。
だってこの白銀のトカゲは、自分がムッチリと太るまで、僕の魔リョクを奪ったやつだしね!
思わずアルセは色艶が良くなった、エスパーダの背後にいる、満足そうな白銀のトカゲを睨みつけた。
「だから私も、父上も… 公爵領を侵犯してくる隣国の者と戦った時に、力を奪いティエーラの竜を満たすようにしている… だが、戦う相手がいないときは… 死刑になる罪人から奪い… 罪人がいない時は…… ひたすら頭に響くティエーラの竜の声を無視する」
「・・・・・・」
え? 頭の中に響く声を… どうやって無視できるの?!
「ティエーラの竜の飢餓が進むと… 頭に響く声は、つねに聞こえるようになるそうだ… 私はまだ、そこまでの経験はしていないが… そうやって父上は心を病み、自制心が弱ったところを付け込まれて、ティエーラの竜に身体を、乗っ取られてしまったんだ」
「あっ! もしかして… 僕から力を吸い取った時も、エスパーダ様ではなくて、ティエーラの竜が…?!」
「あの時… 私はまだ眠りから完全に目覚めてはいなかった、そこを付け込まれたんだ」
「ああ… なるほど」
「3年前… 一番近くにいた母上が、父上の“獲物”になりかけて… 私は臣下たちと相談して、祖父や代々の先祖たちのように… 父上をグラーシア城の地下に幽閉した」
「お義母様が?!」
“祖父や代々の先祖たちのように” …て、グラーシア公爵の最期はそうなるということなの?!
眉間にしわを寄せて、アルセにしては厳しい表情で、エスパーダの言葉をひとことも聞きもらさないよう、集中した。
「表向きでは、父上を亡くなったことにしてだ」
静かにエスパーダは金色の瞳をふせた。
「お気の毒に…」
もう… エスパーダ様にかける言葉がみつからないよ… なんて悲しくて辛い話なんだろう?!
アルセはエスパーダの手をそっとなでる。
「ティエーラの竜は宿主が死ぬまで、次の宿主となるグラーシア公爵家の直系男子に、あらわれることは無い…」
「それだとお父様は… 3年間ティエーラの竜に、身体を乗っ取られたままだったのですか?」
「そうだ…」
アルセは叔父の言葉を思い出した。
『今は立派でまともに見えても、年を重ねるごとに心が病んでゆき、いずれは血に飢えた獣のように、人を惨殺することに喜びを感じるような、怪物になると言っているのだ!』
「・・・・・・」
やっぱり叔父様は間違っていた。叔父様が言っていたのは、おそらく身体を乗っ取ったティエーラの竜のことで… けしてグラーシア公爵本人が、怪物になった訳じゃない!
ああ… 悔しい! 悔しくて悲しいよぉ…!!
エスパーダ様が涙を流していなくても、泣いているように見えるのは… 過去にたくさん涙を流し過ぎて…… きっと涙が、涸れてしまったんだね?
エスパーダの代わりに、紅玉色の瞳から涙がこぼれた。
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