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44話 ティエーラの竜
しおりを挟むエスパーダが胸に触れた瞬間、アルセの身体から力が抜け… 自分の身体が急に重く感じたかと思うと、そのままケガをしたエスパーダの上に、アルセは倒れ込んでしまう。
「…っはぁ…」
あっ! ダメッ! 重傷のエスパーダ様の上にのるなんて…! おりないと! おりないと!!
気持ちだけは、エスパーダの上からおりようと、アルセは努力したが… 力が抜けた重い身体で、思いどおりに動いたのは、腕だけだった。
その腕も上から下へ、移動するぐらいしか動かない。
ジタバタとアルセが焦ってもがくうちに… エスパーダの長い腕がアルセの背中に回り、ギュッ… と抱きしめられた。
「…エ… ス…パ……」
もう… 口も回らない… ああ… 何か頭の中も…
プツリッ… とアルセの意識が途切れた。
月の無い夜のような、真っ暗闇の中でアルセは… 巨大な岩のような大きさの、白銀に輝くトカゲの前にいた。
金の眼がアルセを睨んでいる。
『オマエノ、魔リョク… ゴクジョウ… 我ニ… チカラ…渡セ…』
「…っ?!」
お前がエスパーダ様を苦しめている、原因なのか?! いや、その前にこの白銀のトカゲ、話せるの?! 僕と意志の疎通ができる?!
大声で文句を言おうとしたが… まるで夢の中にいる時のように、アルセの口は上手く動かず、言葉を発することが出来ない。
『魔リョク… コノ男…少ナイ… 我ハ飢エテイル…! 飢エテイル…!』
「…うっくぅ…」
魔力?! …魔力といえば、建国神話に出て来る、魔法使いたちが使う魔法の元になる力… だよね? んんんっ?!
『最初ノグラーシア、魔リョク…ゴクジョウ… タクサン! ダカラ我…結婚シタ… 我ニ… 魔リョク、渡ス約束!!』
「・・・っ」
あれ? この話… 建国神話に出て来る、初代グラーシア公爵が悪竜ティエーラと、結婚した話に似てないか?! いや、その話をしているのか? あ… というか、目の前のこの白銀のトカゲ… もしかしてティエーラの竜?!
『オマエ魔力…渡セ! 最初ノ…グラーシアト同ジ… オマエ魔力、タクサンアル! オマエ……』
「アルセ! 頼むから目を開けろ… アルセ! アルセ―――ッ!!」
「…はっ!」
大声で名前を呼ばれて、目を開けると… 顔を強張らせたエスパーダが、アルセを見下ろしていた。
「大丈夫か?! アルセ! すまない! すまない!」
何度も謝罪をくりかえし、苦しそうに顔を歪めたエスパーダは… 涙は流れていなくても、アルセには泣いているように見えた。
「…エスパーダ様?」
どうしたの?
「すまない私は… 君の命を… 吸い取ろうとした!」
「違う! それはあなたではなくて、きっと白銀のトカゲがしたことです! エスパーダ様は悪くない!!」
あ… 普通に話せる…?! あれ? トカゲと話したの… って夢だったの?
アルセの心の声に反応したのか、エスパーダの背後から、にゅう~っ… と白銀のトカゲが、金の眼をキラキラと満足そうに輝かせて、顔を出した。
その姿に、思わずアルセはぽか~んと口を開けた。
「・・・っ?!」
うわっ…こいつ! 気のせいか… 白銀の身体が艶々と輝いてる! それに、むっちりと太ったようにも見えるぞ?! 僕から魔リョク…? とやらを奪ったせいか?! このトカゲ野郎!!
「アルセ…? 白銀のトカゲとは……?!」
「ああ… エスパーダ様… なんか疲れ……」
異常な疲労感に襲われ、アルセはエスパーダと話の途中でまぶたを閉じ… そのまま深い眠りへと、いっきに落ちる。
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