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36話 帰り道
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先代公爵夫人の紹介で、夜会に招待された有力貴族たちと挨拶をかわし、アルセとエスパーダは自分たちの仲の良さを見せつけ、近いうちに結婚するつもりだと話し… 今夜の目的は達成したと、早めに帰ることにした。
アルセが社交界にデビューしてから、片手で数えられるほどしかパーティーには出席していないため、まだ一度も顔を合わせてはいないが… アルセの元婚約者、マンディブラ伯爵家の長男リブレと従弟のムゲーテに、できるだけ会いたくなかったからだ。
グラーシア公爵家の紋章が入った、最新式の馬車に乗ると… アルセはグッタリと座席に身体をあずけ、ポツリとつぶやいた。
「疲れた…」
本当に今日は、疲れた! パーティーで会いたくない人、5人のうちの1人に会ってしまったし~… でも思ったより、コルティナ侯爵に攻撃されなくてよかったぁ~! 白銀のモヤモヤに感謝だね! でも、あの時は本当に怖かった! エスパーダ様もふだんとは違って見えたから……
ハァ―――ッ… とため息をつくと、アルセは向かい側の座席に座る、エスパーダの背後を見た。
白銀のモヤモヤは、今もアルセを金色の眼で睨んでいるが、コルティナ侯爵を前にした時の、敵意をむき出しにした反応とは違い、安心する。
疲れ果てたアルセに、先代公爵夫人はねぎらいの言葉をかけて来た。
「今夜は良く頑張ったわね、アルセ… それに比べてエスパーダは、アルセが抵抗しないのを良いことに、悪ノリしすぎだわ! 2人の仲の良さを見せつけるためだと言っても、限度があるわよ?!」
エスパーダに説教をする公爵夫人。
「ですが母上、あれぐらいやった方が、私がアルセを溺愛しているように見えるでしょうから…」
「いいえ、エスパーダ! あなたの場合は普通にしていても、アルセを溺愛しているように、見えますよ?」
「・・・っ」
急に黙り込むエスパーダ。
「はははっ…」
何となく気まずい空気が… 流れているような…? うす暗い馬車の中だと、あんまり表情が見えないから、わからないけど… きっとエスパーダ様は、困った顔をしているのだろうなぁ…?
アルセは先代公爵夫人の言葉を冗談だと受け止めて、笑って見せた。
「アルセのように美しいオメガと、恋人のフリが出来て嬉しいのはわかりますけどね…… フリでななくて、本物の恋人になってはどうなの? ねぇエスパーダ… 誰が見ても、あなたたちはお似合いに見えたわよ?」
「母上…!」
「・・・・・・」
お義母様の言う通りに、そうなれたら良いけどね… でもエスパーダ様は、自分の血を残したくないから、僕が望むなら、白い結婚のままで通しても良いとまで、言っていたし… それでも僕は、コルティナ侯爵の愛人になりたくないから、あまり迷わずにエスパーダ様との契約結婚を受け入れた。
エスパーダ様が持つ狂戦士の血とは、本当はどんな血なの?!
『愚か者! 今は立派でまともに見えても、年を重ねるごとに心が病んでゆき、いずれは血に飢えた獣のように、人を惨殺することに喜びを感じるような、怪物になると言っているのだ!』
叔父様はすごくひどい言いかたを、していたけれど… 僕には、わからないよ? エスパーダ様も、叔父様の言う通りだと言うし… 本当にわからないよ…
アルセがぼんやりと考えごとをしていると… ガタガタッ…! と急に馬車のゆれが大きくなった。
「んんっ?」
どうやら馬車を走らせる速度を、御者が早めたらしい。
「・・・・・・」
エスパーダは窓の外をのぞいた。
アルセも一緒に外を見ると… 御者席のわきに付けられたランプの明かりで、かろうじて馬に騎乗して走っていた護衛騎士が、後方を指さしているのが見える。
護衛騎士はエスパーダに、緊急のサインを送って来たのだ。
「襲撃だ!」
アルセが社交界にデビューしてから、片手で数えられるほどしかパーティーには出席していないため、まだ一度も顔を合わせてはいないが… アルセの元婚約者、マンディブラ伯爵家の長男リブレと従弟のムゲーテに、できるだけ会いたくなかったからだ。
グラーシア公爵家の紋章が入った、最新式の馬車に乗ると… アルセはグッタリと座席に身体をあずけ、ポツリとつぶやいた。
「疲れた…」
本当に今日は、疲れた! パーティーで会いたくない人、5人のうちの1人に会ってしまったし~… でも思ったより、コルティナ侯爵に攻撃されなくてよかったぁ~! 白銀のモヤモヤに感謝だね! でも、あの時は本当に怖かった! エスパーダ様もふだんとは違って見えたから……
ハァ―――ッ… とため息をつくと、アルセは向かい側の座席に座る、エスパーダの背後を見た。
白銀のモヤモヤは、今もアルセを金色の眼で睨んでいるが、コルティナ侯爵を前にした時の、敵意をむき出しにした反応とは違い、安心する。
疲れ果てたアルセに、先代公爵夫人はねぎらいの言葉をかけて来た。
「今夜は良く頑張ったわね、アルセ… それに比べてエスパーダは、アルセが抵抗しないのを良いことに、悪ノリしすぎだわ! 2人の仲の良さを見せつけるためだと言っても、限度があるわよ?!」
エスパーダに説教をする公爵夫人。
「ですが母上、あれぐらいやった方が、私がアルセを溺愛しているように見えるでしょうから…」
「いいえ、エスパーダ! あなたの場合は普通にしていても、アルセを溺愛しているように、見えますよ?」
「・・・っ」
急に黙り込むエスパーダ。
「はははっ…」
何となく気まずい空気が… 流れているような…? うす暗い馬車の中だと、あんまり表情が見えないから、わからないけど… きっとエスパーダ様は、困った顔をしているのだろうなぁ…?
アルセは先代公爵夫人の言葉を冗談だと受け止めて、笑って見せた。
「アルセのように美しいオメガと、恋人のフリが出来て嬉しいのはわかりますけどね…… フリでななくて、本物の恋人になってはどうなの? ねぇエスパーダ… 誰が見ても、あなたたちはお似合いに見えたわよ?」
「母上…!」
「・・・・・・」
お義母様の言う通りに、そうなれたら良いけどね… でもエスパーダ様は、自分の血を残したくないから、僕が望むなら、白い結婚のままで通しても良いとまで、言っていたし… それでも僕は、コルティナ侯爵の愛人になりたくないから、あまり迷わずにエスパーダ様との契約結婚を受け入れた。
エスパーダ様が持つ狂戦士の血とは、本当はどんな血なの?!
『愚か者! 今は立派でまともに見えても、年を重ねるごとに心が病んでゆき、いずれは血に飢えた獣のように、人を惨殺することに喜びを感じるような、怪物になると言っているのだ!』
叔父様はすごくひどい言いかたを、していたけれど… 僕には、わからないよ? エスパーダ様も、叔父様の言う通りだと言うし… 本当にわからないよ…
アルセがぼんやりと考えごとをしていると… ガタガタッ…! と急に馬車のゆれが大きくなった。
「んんっ?」
どうやら馬車を走らせる速度を、御者が早めたらしい。
「・・・・・・」
エスパーダは窓の外をのぞいた。
アルセも一緒に外を見ると… 御者席のわきに付けられたランプの明かりで、かろうじて馬に騎乗して走っていた護衛騎士が、後方を指さしているのが見える。
護衛騎士はエスパーダに、緊急のサインを送って来たのだ。
「襲撃だ!」
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