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33話 グラーシア公爵家の母子 

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 3人で並んで歩きながら… エスパーダの母、先代グラーシア公爵夫人が唇を扇子せんすで隠し、アルセと息子に伝えた。

「コルティナ侯爵様がいらしているわ! エスパーダ… あなたは今まで王都で、社交活動をほとんどしてこなかったでしょう?」

「・・・・・・」
 エスパーダはしぶい顔で、小柄な女性オメガの母親にうなずいた。

 学園を卒業してから、仕事(主に王族との付き合い)以外で王都には来ないエスパーダは、国境線の防衛が忙しいと言い訳をして、王都での社交活動は先代公爵夫人に丸投げしている。

「あなたの恋がたきを、今から紹介してあげるから、しっかり観察しなさい」

「ええ…」

「・・・っ」
 コルティナ侯爵… 僕を愛人にしようとした人だ! 叔父様がすごく恐れていたけれど、どんな人だろう?!

 夫人とエスパーダは、何の気負きおいもなく単なる情報の伝達といった感じで、話しているが… アルセはコルティナ侯爵の名前を聞き、ビクッ… と身体を強張らせ、自分をエスコートするエスパーダの腕をギュッ… とつかむ。
 
「大丈夫だアルセ! そんなにおびえなくても良いから…」
 アルセをエスコートするエスパーダのたくましい腕に、怯えと緊張が伝わり… エスパーダは自分の腕につかまるアルセの手を、トントン… となだめるようにたたいた。

「は… はい」
 僕のせいでエスパーダ様に、めんどうな敵が出来たらどうしよう?! コルティナ侯爵が、素直に僕から手を引いてくれたら良いけど…? それが一番怖いよ!

 チラリ… とアルセが視線を上げると、エスパーダが金色の瞳をやわらげて、穏やかに微笑んでいた。
 エスパーダをはさんだ、アルセとは反対側にいる先代公爵夫人も… 大丈夫だから、任せなさい! …とエスパーダとよく似た笑顔を浮かべている。

 そんな2人にアルセは、緊張で顔を強張らせた顔で、コクリとうなずき、無理して笑って見せた。
 
「・・・・・・」
 学園を退学して、グラーシア公爵邸で僕が2人と、暮らすようになってから… エスパーダ様とお義母様(公爵夫人に母と呼べと言われている)に、もう家族なのだから、もっと甘えて頼りなさいと、いつも言われてしまうんだ。
 でも、僕とエスパーダ様の場合、契約結婚だから… それにまだ婚約もしていない段階だし。
 だから、本当にこれで、良いのかなぁ? …と頼り過ぎては、いけない気がするんだけど……? 

 アルセは隣を歩くエスパーダの、端整たんせいで美しい横顔を、チラリと見上げた。
 出会ってから間もないアルセに、グラーシア公爵家の母と息子は、本当の家族のように… 叔父や従兄弟に裏切られ、売られそうになったアルセを、可愛がり守ろうとしてくれる。

 アルセはそれが嬉しくもあり、怖くもあった。
 この恩を自分に、返せるのだろうか? …と。



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