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32話 社交活動2

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 人の多い夜会の会場で、招待客たちにチラチラと見られながら、アルセの細い腰を引き寄せたまま、堂々とイチャつくを続けるエスパーダ。


「お願いですから、放して下さいエスパーダ様! これでは本当に… 僕はふしだらオメガになった気分になります!」
 もう、限界げんかいだよ! だってさっきから、アルファの招待客たちが、ニヤニヤと笑って見ているし! 僕は本当はふしだらでも、尻軽でも無いのに! 

 恥かしさで真っ赤になったアルセの瞳が、涙目になっていることに気付いたエスパーダは、チュッ… と頬にキスを落としてから… しぶしぶ腰を放した。

「放しても良いが… 絶対に、私の近くにいるんだぞ? アルファたちがよだれをたらして、君を狙っているから」

「ううっ… はい…」


 近くで2人を観察していた、貴族たちがクスクスと忍び笑いをもらした。
「フフフッ… グラーシア公爵様の婚姻の儀式も近そうですわね?」 ヒソヒソ クスクス
「公爵様のお相手の、あの方はどなたかしら?」 ヒソヒソ
「ほら… クルシジョ子爵家の… 学園の寮を抜け出して恋人と会っていたという… ふしだらな子ですよ!」 ヒソヒソ
「まぁ!」 ヒソヒソ クスクス
「でも、私が聞いた話では… 従弟と浮気をする婚約者に嫌気がさして、クルシジョ子爵の令息は、亡くなったお父様と懇意こんいにしていた、グラーシア公爵様に相談するため、密会していたそうですわよ?」 ヒソヒソ
「あらあらあら…!」 ヒソヒソ クスクス
 
 ヒソヒソと、貴婦人たちは扇子せんすでいそがしく動き続ける唇を隠しながら、そんな話題で花を咲かせている。

 今まで、滅多めったに公爵領を出なかったエスパーダが、アルセを連れ回していれば、嫌でもうわさとなる。

 あと2ヶ月半ほど待てば、アルセも“成人の儀”を終え、結婚相手を自由に選べる資格を持つことが出来る。 
それまでの辛抱だった。
 
 
「エスパーダ様、どうやら… お義母様の作戦は成功しているようですね?」
 ヒソヒソとアルセはエスパーダの耳元でささやいた。

 噂に対抗するなら、噂が良いと… エスパーダの母はわざと、アルセに都合の良い噂を、出席した夜会でヒソヒソと、“秘密の話だけど、特別にあなたにだけ教える” …と、貴婦人たちにばらいていた。

 自分だけが知る秘密の話を、誰かに自慢したくなるのは、口の軽いおしゃべりな貴族たちの特徴であり、新たな噂話はアッ… というまに社交界で広まった。

「そうだな、母上が上手くやってくれているようだ」

「はい」
 ホッ… とため息をつき、アルセは微笑んだ。

 3年ほど前に先代グラーシア公爵が亡くなったあと、エスパーダの母は公爵領を離れて、王都のグラーシア公爵邸で暮らしていた。

 公爵家の内情をすべて知るエスパーダの母は、ただ1人… 2人の契約結婚について知る人物である。

 アルセの叔父との話し合いの後、すぐにエスパーダは公爵夫人に相談すると、絶対に社交活動をするべきだと、助言され… そうした経緯から2人は、慣れないことをしているのだ。

 
「まぁ、あなたたち…! こんな部屋のすみにいるから、捜すのに手間取ってしまったわ!」

 背後から声をかけられ振り向くと、アルセよりもずっと小柄の、オメガの女性が立っていた。
 エスパーダの母である。
 

「2人でぼんやりとしていないで… 紹介したい人がいるから、さぁ、ついて来なさい!」







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