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31話 社交活動
しおりを挟む夜会に招待された、煌びやかに着飾った人々の中で、アルセ自身も最新の流行を取り入れた、美しいオメガ用の礼装に身を包んで立っていた。
アルセの隣には、他の招待客たちより頭一つ分は背が高く、堂々とした体格に、端正な容姿が人目をひくエスパーダが、アルセをエスコートしている。
「あの方がグラーシア公爵様? 野蛮な噂とは違い、なんて素敵な方だろう?」ヒソヒソ
「本当に… でも、隣にいるクルシジョ子爵家の令息が気に入らないね!」ヒソヒソ
「なんであんな、ふしだらなオメガなんかを、連れているの?!」ヒソヒソ
学園生時代に見たことがある、同学年のオメガたちのヒソヒソ話が、アルセの耳まで届く。
「今夜も注目されてますねぇ…? きっとエスパーダ様が、素敵だからですよ」
ううっ… やっぱりここでも、注目されている! これはエスパーダ様が素敵過ぎるからだよねぇ? そして僕の醜聞も、元気に飛び回っているみたいだ…… トホホだね…
社交界デビューを果たしたばかりのアルセは、今夜もビクビクと隣に立つエスパーダを見あげて、耳元で囁いた。
「いや、違う!」
エスパーダは無作法に、アルセの細い腰をグイッ… と引き寄せ、身体をピタリと密着させると、耳にチュッ… とキスを落とし…
「私ではなくて、アルセの美しさに見惚れているからさ!」
楽しげにエスパーダは声を落とすことなく、金色の瞳をやわらげ微笑みながら、アルセの言葉を訂正した。
「エ… エスパーダ様!」
僕たちが… 仲が良いと、イチャイチャして社交界で見せつけるための、演… 演技でも… こ… これは熱烈すぎませんか?! ううっ… 恥かしいです!
気が強いアルセには珍しいことだが、紅玉色の瞳と同じくらい、顔を真っ赤に染めて… やりたい放題のグラーシア公爵様に、されるがままとなっている。
そんな2人の姿を見て、アルセの悪口を言っていた、若いオメガたちは悔しそうに眉をひそめた。
アルセは気付いていないが、エスパーダのグラーシア公爵の血筋の者が持つ、強いアルファの威圧感を… 心から信頼するオメガのアルセが隣にいることで、柔らかく中和してエスパーダの存在感を、穏やかに見せているのだ。
エスパーダを素敵だとほめちぎる招待客のオメガたちも、アルセが隣にいなければ、震えがくるほどの威圧感に恐怖を感じ… 印象がガラリと変わったエスパーダは、噂通りの狂戦士だと、けしてなごやかな気分ではいられないだろう。
アルセの叔父クルシジョ子爵は、エスパーダとの話し合いのあと、沈黙を守り続け、1週間の時が過ぎても結婚の許可を出さないでいた。
それならこちらは、社交活動を活発におこない、自分たちの仲睦まじい姿を見せつけて、2人は婚約者同然の関係だと、アピールしようとしているのだ。
ムゲーテが流した、アルセが婚約者以外の恋人と会うために、ふしだらな行動をしていたという、悪い噂を決定づけることとなるが…。
だが、悪い噂の相手は、王国で王族に次いで高い地位にある、グラーシア公爵である。
グラーシア公爵にケンカを売るような、まねをする貴族は、いないはずだと考えてのことだ。
その中には当然、アルセを愛人に望んでいるコルティナ侯爵も含まれている。
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