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20話 再会 エスパーダside
しおりを挟む王都でするべき仕事をすべて終わらせ、領地へ戻ろうと準備していた時に、先日会いに行った学園長と、一番の話題となったクルシジョ子爵家のアルセが、学園に戻っていると連絡を受け、エスパーダは急遽学園を訪れることにした。
(機会があれば彼と話してみたいと、学園長に頼んでおいた)
学園の敷地に入ったとたん、前回も感じたピリピリとした緊張感がエスパーダの体内を駆け巡る。
「…やはり間違いない、この感覚だ!」
私の血が彼に呼ばれているようだ! 不思議だな… なぜだろう?!
ゾクッ… ゾクッ… と鳥肌がたつような、悪寒に似た感覚をたよりに、エスパーダは学園の中を進んで行くと…
「待て―――っ!! ゲス野郎! 絶対にお前を許さないからな!!」
「……あっちか?」
どこからか、殺気がこもった怒鳴り声が聞こえ… エスパーダは声が聞こえた方へ駆けだした。
ゾクッ… ゾクッ… とする感覚が強くなり、ピタリと立ち止まり、耳を澄ませてみると… ガツガツと荒々しく走る足音が、エスパーダに近づいて来た。
交差する廊下のまがり角から、顔だけを出して確認すると… 先日アルセに暴力を振るっていた、アルファの一人が走って来るのが見える。
その後ろに、エスパーダが会いに来た目的の人物、クルシジョ子爵家のアルセが抜き身の剣をにぎりしめて、アルファを追いかけ走って来た。
『これは、いったい… どういう状況だ?!』 …と首を傾げつつ、アルセが追いかけている、アルファの男がまがり角を通り過ぎるタイミングを計り、飛び出して足を引っ掛けて転がした。
殺気立ったアルセから剣を取り上げると…
「剣を返して下さい!! こいつは…… 殺さないと! 僕は叔父に… こいつの父親に売られてしまったから! ここでこいつを殺しておかないと… 僕を親子で愛人にしようとしている、こいつらにオモチャにされる! きっと後悔するから!!」
「……君を愛人にする… だと?」
「コルティナ侯爵が… 僕の紅玉色の瞳を欲しがったから… 僕はすべてを奪われて、叔父に売られるんです…! そんなの絶対に受け入れられない!」
怒りと屈辱で美しい紅玉色の瞳をギラギラと光らせ、アルセは大粒の涙をこぼす。
「・・・っ」
眼のふちが赤くなっている! 繊細さに乏しい私でもわかる… この子は長い間、1人で泣いていたようだ! 可愛そうに… 学園長から、少し前に家族を亡くしたばかりだと聞いた… 悲しみが癒える間もなく、婚約者に浮気をされ、新しい家族だと思っていた奴らは、狡猾な裏切り者だったと知るとは、心が休まる時もなかっただろう…
ポタポタと頬を流れ落ちる涙に狼狽えながら、エスパーダは激しい怒りで唇を震わせるアルセの顔を、マジマジと見つめた。
「お願いです! どうか僕に、剣を返して下さい!」
「なるほど… 事情は分かった! …だが、今は落ち着け、アルセ! 今すぐこいつを、この場で殺すよりも… このまま生かして放置する方が、こいつには何倍も辛い罰になるはずだから!」
コソコソと逃げ出そうとしていたジャベの足に、エスパーダは再び長く逞しい足を引っかけ、難なく転ばせることに成功する。
「うわっ…! クソッ…!!」
「・・・・・・」
まったく、うるさい奴だな!! 少しは黙っていろ!!
「痛えっ…!! ングッ……!!!」
石床に両手、両足をついて這う、ジャベの太ももと肘を蹴り、背中の上から騎士用の硬いブーツの靴底で思いっきり踏んで、ベチャッ…! と石床にキスさせる。
石床とキスをする前に、ガリッ… と音がしたから、もしかすると歯が折れているかも知れないが、エスパーダには関係のないことだった。
「話の邪魔をするな! 躾の悪い駄犬が… 命が惜しければ、お前は大人しくしていろ!」
石床に倒れたジャベの背中をさらに体重をかけて、ギュー… と踏みつけて抑え込み、エスパーダは逃げるのを阻止する。
「うぐっふっ… 放せ! クソッ…! クソッ…!」
2週間前に、アルセがジャベにやられたことを、皮肉にも今度はジャベが、エスパーダにやられているのだ。
「放… 放置したら、なぜ辛い罰になるのですか? どういう意味?!」
エスパーダの足の下のジャベを見下ろし、アルセは呆気にとられながらたずねた。
「体力も体格も劣るオメガの君に、追い回されて醜く逃げ惑ったアルファなんて… 誰がどう見ても、嘲笑の的にしかならないだろう?」
再びアルセに視線を移し、エスパーダは顎を振り、背後からチラチラとこちらをうかがう、数人の学園生たちを見てみろと、アルセに促した。
「…あっ」
促されるまま、アルセは背後を振り返り自分たちのことを、興味津々で見つめる学園生たちがいると気づく。
「明日には奴らの口が、この駄犬に罰をあたえるだろう」
「確かに… でも!」
「ここで君に殺されなかったことを… 必ずこいつは、後悔することになるはずだ! 何年もこの情けない話が、こいつについて回るだろうからな」
エスパーダはニヤリと悪い笑みを浮かべた。
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