上 下
22 / 114

20話 再会 エスパーダside

しおりを挟む
 

 王都でするべき仕事をすべて終わらせ、領地へ戻ろうと準備していた時に、先日会いに行った学園長と、一番の話題となったクルシジョ子爵家のアルセが、学園に戻っていると連絡を受け、エスパーダは急遽きゅうきょ学園を訪れることにした。
(機会があれば彼と話してみたいと、学園長に頼んでおいた)

 学園の敷地に入ったとたん、前回も感じたピリピリとした緊張感がエスパーダの体内をめぐる。

「…やはり間違いない、この感覚だ!」
 私の血が彼に呼ばれているようだ! 不思議だな… なぜだろう?!

 ゾクッ… ゾクッ… と鳥肌がたつような、悪寒に似た感覚をたよりに、エスパーダは学園の中を進んで行くと…


「待て―――っ!! ゲス野郎! 絶対にお前を許さないからな!!」


「……あっちか?」
 どこからか、殺気がこもった怒鳴り声が聞こえ… エスパーダは声が聞こえた方へけだした。

 ゾクッ… ゾクッ… とする感覚が強くなり、ピタリと立ち止まり、耳をませてみると… ガツガツと荒々しく走る足音が、エスパーダに近づいて来た。

 交差する廊下のまがり角から、顔だけを出して確認すると… 先日アルセに暴力を振るっていた、アルファの一人が走って来るのが見える。
 その後ろに、エスパーダが会いに来た目的の人物、クルシジョ子爵家のアルセが抜き身の剣をにぎりしめて、アルファを追いかけ走って来た。

『これは、いったい… どういう状況だ?!』 …と首をかしげつつ、アルセが追いかけている、アルファの男がまがり角を通り過ぎるタイミングを計り、飛び出して足を引っ掛けて転がした。

 殺気立ったアルセから剣を取り上げると… 

「剣を返して下さい!! こいつは…… 殺さないと! 僕は叔父に… こいつの父親に売られてしまったから! ここでこいつを殺しておかないと… 僕を親子で愛人にしようとしている、こいつらにオモチャにされる! きっと後悔するから!!」

「……君を愛人にする… だと?」

「コルティナ侯爵が… 僕の紅玉色ルビーレッドの瞳を欲しがったから… 僕はすべてを奪われて、叔父に売られるんです…! そんなの絶対に受け入れられない!」
 怒りと屈辱くつじょくで美しい紅玉色ルビーレッドの瞳をギラギラと光らせ、アルセは大粒の涙をこぼす。

「・・・っ」
 眼のふちが赤くなっている! 繊細さにとぼしい私でもわかる… この子は長い間、1人で泣いていたようだ! 可愛そうに… 学園長から、少し前に家族を亡くしたばかりだと聞いた… 悲しみがえる間もなく、婚約者に浮気をされ、新しい家族だと思っていた奴らは、狡猾こうかつな裏切り者だったと知るとは、心が休まる時もなかっただろう… 

 ポタポタと頬を流れ落ちる涙に狼狽うろたえながら、エスパーダは激しい怒りで唇を震わせるアルセの顔を、マジマジと見つめた。 

「お願いです! どうか僕に、剣を返して下さい!」

「なるほど… 事情は分かった! …だが、今は落ち着け、アルセ! 今すぐこいつを、この場で殺すよりも… このまま生かして放置する方が、こいつには何倍も辛い罰になるはずだから!」

 コソコソと逃げ出そうとしていたジャベの足に、エスパーダは再び長くたくましい足を引っかけ、難なく転ばせることに成功する。

「うわっ…! クソッ…!!」

「・・・・・・」
 まったく、うるさい奴だな!! 少しは黙っていろ!!

「痛えっ…!! ングッ……!!!」
 石床に両手、両足をついてう、ジャベの太ももとひじり、背中の上から騎士用の硬いブーツの靴底で思いっきり踏んで、ベチャッ…! と石床にキスさせる。
 石床とキスをする前に、ガリッ… と音がしたから、もしかすると歯が折れているかも知れないが、エスパーダには関係のないことだった。

「話の邪魔をするな! しつけの悪い駄犬だけんが… 命がしければ、お前は大人しくしていろ!」
 石床に倒れたジャベの背中をさらに体重をかけて、ギュー… と踏みつけて抑え込み、エスパーダは逃げるのを阻止する。

「うぐっふっ… 放せ! クソッ…! クソッ…!」
 2週間前に、アルセがジャベにやられたことを、皮肉にも今度はジャベが、エスパーダにやられているのだ。

「放… 放置したら、なぜ辛い罰になるのですか? どういう意味?!」
 エスパーダの足の下のジャベを見下ろし、アルセは呆気あっけにとられながらたずねた。

「体力も体格もおとるオメガの君に、追い回されてみにくく逃げまどったアルファなんて… 誰がどう見ても、嘲笑ちょうしょうの的にしかならないだろう?」

 再びアルセに視線を移し、エスパーダはあごを振り、背後からチラチラとこちらをうかがう、数人の学園生たちを見てみろと、アルセにうながした。

「…あっ」
 うながされるまま、アルセは背後を振り返り自分たちのことを、興味津々きょうみしんしんで見つめる学園生たちがいると気づく。

「明日には奴らの口が、この駄犬だけんに罰をあたえるだろう」

「確かに… でも!」

「ここで君に殺されなかったことを… 必ずこいつは、後悔することになるはずだ! 何年もこのなさけない話が、こいつについて回るだろうからな」


 エスパーダはニヤリと悪い笑みを浮かべた。






しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...