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18話 反撃

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 下品な言葉で大嫌いな卑怯者ひきょうものたちに声をかけられたアルセは… 今まで受けた屈辱くつじょくと、暴力による肉体的な痛みが頭の中によみがえり、冷たい怒りで身体が震えた。
 これまでは… 何をされるのかわからない恐怖で、おびえて震えていたアルセの身体が、今は怒りで震えているのだ。

 胸にある父の剣をつかむアルセの手に、ギュッ… と力が入る。

 以前のようにアルセが怯えて震えていると誤解した、コルティナ侯爵の3男ジャベは… アルセが胸に抱く剣を見て、侮辱する良い言葉を見つけたと言わんばかりに、ニヤニヤと笑い口を開いた。

「何だよ、そんな剣なんか持って… 学園内は武器を持って歩くのを、禁止されていると知らないのか? ああ、お前は尻軽なせいで、退学しているから、規則なんて知らなくても関係無いか!!」

 ジャベの言う通り、学園側から許可が無い者は剣を持ち歩けない。
 だが、騎士課の騎士を目指す学園生たちは、許可を得て普段から腰に剣を下げている者もいる。
 アルセは一般教養課に所属していたため、剣の帯剣たいけんは認められないが… 剣が父親の遺品であるという理由から、学園長の配慮で特別に寮内の自室で、剣を保管することを許可されていた。

「・・・・・・」
 また、ジャベの安い挑発が始まった…! 僕は退学したから、今までのように報復を恐れて、こんな奴の下品な言葉を我慢しなくても良いんだ! 聞く必要なんてないし、無視してしまおう!

 面倒くさいとアルセはため息をつき、その場を歩き去ろうと、ジャベたちにくるりと背中を向けた。
 だが…… 

「確か、お前の父親って… 騎士だったよなぁ? すげぇ弱かったらしいな! なんてったって馬車で強盗に襲われても、妻と子供も守れなくて、殺されたらしいじゃないか?!」

「確か近衛騎士団の元騎士だと聞いたけど… それって、誰かを金で買収して騎士団に入団したって噂らしいな?」
 ジャベの挑発に、ここぞとばかりに乗っかる、コルティナ侯爵家、家門(親戚)のメサとノチェが、ゲラゲラと笑いながら、絶対にアルセが許せない暴言を吐く。


 頭で考えるよりも先に、アルセの身体が素早すばやく動いた。
 身体の向きを変え、暴言を吐いたメサにけ寄り… アルセはこぶしをにぎるとメサの顔の真ん中に、ガツッ…! と鈍い音をたてて打ち込む。

「ギャアッ!!」
 不意をつかれたメサは、なさけない叫び声をあげて、自分の鼻を押さえる。
 アルセに鼻の骨を折られて、鼻血がだらだらと出ていた。

 人を殴ることに慣れていないアルセの拳は痛み、手を振りながら… 続けて父の剣のさやで、ドスッ…!とノチェの腹をつく。

「なっ……?!」
 アルセに反撃されるとは、思いもしなかったジャベは、口を開けてノチェが崩れ落ちる姿を、マヌケな顔をさらして見ていた。

「よくも… 僕のお父様を侮辱したな!! 絶対にお前たちを許さないからな!! 絶対に許さない!!」

 顔を真っ赤にして怒り狂ったアルセは、鞘から剣を抜く。
 叔父にだまされて取らされた、2週間の療養生活でアルセの体調は万全ばんぜんとなり、本来の運動能力を取り戻すことが出来ていた。

「バ… バカじゃないのか? オメガのくせに、剣なんか抜いて!! お前は父上の愛人になるんだろう? こんなことして良いと思っているのか? 息子のオレにも従った方が良いと、わからないとは… どんだけバカなんだ? やっぱり尻軽だから頭も軽いのか?」
 さすがのジャベも、アルセが剣を抜いた姿を見て、マズイ状況になったと気づいたらしく… 侮辱しながらも、そろそろと後ろに下がる。

「ジャベ、お前こそバカじゃないか?! 騎士の息子が父親から剣術を習うのは当然じゃないか?! 僕がオメガだからって、バカにし過ぎだろう?」
 こいつ… 殺しても良いよね? だって、散々僕を苦しめて… これからもこいつは、僕を苦しめるつもりなんだ… 親子で僕をオモチャにして苦しめるんだ……

 アルセは今までのうらみを込めて、ジャベに剣を向けた。 紅玉色ルビーレッドの瞳が殺気でギラギラと光る。
 オメガにしてはすらりと高い身長のせいか、アルセの腕は剣を持つと、ジャベの目にはやたらと長く見えた。

「うわっ… 来るなぁ!!」
 ジャベはアルセの本気を読み取り、あわてて逃げ出し… アルセはジャベを追いかける。


「待て!! ゲス野郎―――っ!! 殺してやる!!」

 自暴自棄となったアルセを、学園には誰も止める者はいない。


 アルセが嫌がらせを受け助けを求めても、見て見ぬふりをしていた学園の者たちは… アルセが剣を振りまわして暴れても、やはり見て見ぬふりをするからだ。






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