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17話 絶望
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ゲラゲラと自分を笑う従弟の笑い声に耐えられなくなり… アルセは1人になりたくて、ふらりと部屋を出て、笑い転げる従弟を置き去りにした。
「ああ… 寮にも… 生まれ育ったクルシジョ子爵邸にも… 僕の居場所は無くなった… もう、帰る場所も無いんだね?」
叔父様は僕を、コルティナ侯爵に売ったんだ…? そのために、僕からすべてを奪った…。
そんな人が、僕の味方だと思っていたなんて… 僕はムガーテの言う通り、どうしようもないマヌケなんだなぁ……
胸には御守りがわりの父の剣を抱いたまま、寮の敷地を出ると… 通いなれた学園までの道を、ふらふらと虚ろな目でアルセは歩く。
「ここに来るのも、これで最後なんだ…」
愛人にまで落ちたら… 僕は恥ずかしくて、この場所に来ることなんて出来ないから…。
涙がまた… 紅玉色の瞳からこぼれる。
とちゅうで何度か学園生たちとすれ違ったが… 誰もアルセとは目を合わせようとはしなかった。
アルセは学園生たちに泣き顔をさらしても、自分の顔を見る者はいないと… 濡れた頬をぬぐうのを止める。
学園生たちは自分にとって、道ばたに生えている草とかわりない、意味の無い存在なのだと… アルセも学園生たちを、見ないことにした。
「どうせ誰も、僕の顔なんか見ないさ…」
ぬぐっても、ぬぐっても… すぐにまた、頬は濡れてしまうしね…
意地もプライドも砕け散り… 心にぽっかりと空いた虚しい穴を塞ぐことができないから… あふれる涙を止められず、流れるままにするしかない。
学園で別れを告げたい人は、誰もいないけれど… もう、来ることは無いと思うと、名残惜しいと感じる場所はたくさんある。
アルセはそんな場所を、一か所ずつ見てまわった。
1人っきりで何時間でも、暇つぶしが出来る図書室に… 講義室。
課題をやるのに最適だった、大きなクスノキの前にあるベンチ。
友人が消えてから、毎日一人で昼食をとっていた、学園の敷地のはしにある石造りのテーブルセットが置かれたガセボ。
「何で退学になった奴が、こんなところにいるんだ? ああ、オレに抱かれたくて来たのか?! これだから尻軽は!」
「・・・っ?!」
有名な建築家が手掛けた、芸術的な優美さをほこる回廊に立ち、ぼんやりと中庭をながめていると… 下品な話し声が聞こえ、アルセは顔をしかめる。
「どうせ、媚びを売りに来たんだろう?」
コルティナ侯爵の3男ジャベと、コルティナ家門(親戚)のメサとノチェが、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて、アルセに向かって歩いて来た。
「・・・・・・」
感傷に耽っていたアルセは、学園ですごす最後の時間を大嫌いな奴らに邪魔をされ… 冷たい怒りに支配される。
「ああ… 寮にも… 生まれ育ったクルシジョ子爵邸にも… 僕の居場所は無くなった… もう、帰る場所も無いんだね?」
叔父様は僕を、コルティナ侯爵に売ったんだ…? そのために、僕からすべてを奪った…。
そんな人が、僕の味方だと思っていたなんて… 僕はムガーテの言う通り、どうしようもないマヌケなんだなぁ……
胸には御守りがわりの父の剣を抱いたまま、寮の敷地を出ると… 通いなれた学園までの道を、ふらふらと虚ろな目でアルセは歩く。
「ここに来るのも、これで最後なんだ…」
愛人にまで落ちたら… 僕は恥ずかしくて、この場所に来ることなんて出来ないから…。
涙がまた… 紅玉色の瞳からこぼれる。
とちゅうで何度か学園生たちとすれ違ったが… 誰もアルセとは目を合わせようとはしなかった。
アルセは学園生たちに泣き顔をさらしても、自分の顔を見る者はいないと… 濡れた頬をぬぐうのを止める。
学園生たちは自分にとって、道ばたに生えている草とかわりない、意味の無い存在なのだと… アルセも学園生たちを、見ないことにした。
「どうせ誰も、僕の顔なんか見ないさ…」
ぬぐっても、ぬぐっても… すぐにまた、頬は濡れてしまうしね…
意地もプライドも砕け散り… 心にぽっかりと空いた虚しい穴を塞ぐことができないから… あふれる涙を止められず、流れるままにするしかない。
学園で別れを告げたい人は、誰もいないけれど… もう、来ることは無いと思うと、名残惜しいと感じる場所はたくさんある。
アルセはそんな場所を、一か所ずつ見てまわった。
1人っきりで何時間でも、暇つぶしが出来る図書室に… 講義室。
課題をやるのに最適だった、大きなクスノキの前にあるベンチ。
友人が消えてから、毎日一人で昼食をとっていた、学園の敷地のはしにある石造りのテーブルセットが置かれたガセボ。
「何で退学になった奴が、こんなところにいるんだ? ああ、オレに抱かれたくて来たのか?! これだから尻軽は!」
「・・・っ?!」
有名な建築家が手掛けた、芸術的な優美さをほこる回廊に立ち、ぼんやりと中庭をながめていると… 下品な話し声が聞こえ、アルセは顔をしかめる。
「どうせ、媚びを売りに来たんだろう?」
コルティナ侯爵の3男ジャベと、コルティナ家門(親戚)のメサとノチェが、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて、アルセに向かって歩いて来た。
「・・・・・・」
感傷に耽っていたアルセは、学園ですごす最後の時間を大嫌いな奴らに邪魔をされ… 冷たい怒りに支配される。
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