竜血公爵はオメガの膝で眠る~たとえ契約結婚でも…

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
18 / 114

16話 従弟の言葉

しおりを挟む

 カチャッ…! コツ… コツ… コツ… パタンッ…! 
 アルセの背後で、ノックもしないで不躾ぶしつけに扉が開き、許可も取らず勝手に誰かが部屋に入って来た。

 扉に背を向けてベッドに座り、父の剣を抱きながら泣いていたアルセは、あわてて手のひらで、涙で濡れた頬をぬぐう。
 相手が誰であっても、自分の泣き顔を見せたくないからだ。


「うわっ! 学園生でも無いのに、アルセお兄様…ったら、まだ学園の制服を着ているの? なんて恥知らずなんだろうね?!」

 学園生活に復帰する気だったアルセは、当然のように制服を着ていた。 
「・・・っ」
 憎たらしい侮辱ぶじょくの言葉を投げかけられ… 顔をあげてアルセが振り向くと、そこには従弟のムゲーテが、可愛らしく小さな顔をかしげて、立っていた。

「ムゲーテ、何の用?」

「ふふふ… 可愛そうなアルセお兄様が、大好きな学園をる手伝いをしてあげようと思って、来たんだけど? どうやら荷造りは終ったみたいだね?」
 軽やかな足音を立てて、ムゲーテはアルセの隣に来て、トスンッ… とベッドに腰を下ろした。

「手伝う気なんて、まったく無いくせに! 僕の前で、そんな良い子のフリをするなんて… すごく気持ち悪いから、他所よそでやれば?!」
 どうせ、周囲の人たちに自分を良く見せようと、僕に同情するフリをして、来たに決まっている! 本当に何でこの子はここまで性悪なんだろう?! 騙されて裏切られるまで、ムゲーテの狡賢ずるがしこい性質に気づかなかったなんて… 僕は本当にマヌケだったんだね?!

 アルセはずっと従弟のムゲーテのことを、裏切られるまでは人形のように容姿も可愛いが、少しドジなところが愛嬌あいきょうがあって、もっと可愛く見えると… ずっと本気で、そう思い込んでいたのだ。

「もう、アルセお兄様ってば、ひどい、言いかたするねぇ?! これでも僕はお兄様が嫁ぐ前に、お別れの挨拶を、しに来てあげたというのにさぁ…? 僕も寮暮らしだから、しばらく家に戻れないし… お兄様は従弟に対してあまりにも、薄情じゃないの?」
 わざとらしく傷ついた顔をして、ムガーテは抗議するが… 瞳がキラキラと楽しそうに輝いていた。

「別れの挨拶だって…? ああ、もしかして自分よりも先に、僕が結婚するから嫉妬して、僕の“婚姻こんいん”にも出てくれないの?! ムガーテの方がずっと薄情じゃないか!」
 本当に嫌味な奴! こんな子だったなんて… ああ、むかつく…! 悔しいぃ…!!

「・・・・・・」
 ムガーテはポカ~ンと、マヌケっぽく口を開けて、アルセの顔を見つめた。

「何? そのアホ面は…?!」

「ブハッ…!!! アハハハハ―――ッ!!!! アルセお兄様、それ本気で言っているの?! お兄様ったら、どこまでマヌケなんだよ!!」
 急にムガーテは吹き出して、ゲラゲラと笑い出した。

「…何だって?!」
 いったい何なんだ?! 本当にこの子は、口を開くたびにむかつくことしか言えない子なのか?! 

 眉間みけんにしわを寄せたアルセは、ゲラゲラと下品な声をあげて笑うムガーテを見下ろした。


「お兄様が“婚姻の儀”なんて、やれる訳ないじゃないか! それに結婚するだってぇ?! 何を言っているのさ…?! 嫁ぐといっても、本妻として嫁ぐと思っていたの? 醜聞しゅうぶんまみれのお兄様に、そんな美味おいしい話が来るわけないよ! そんなふうに思い込むなんて、本当にお兄様はマヌケだね―――っ?!」

「・・・っ?!」
 今のはどういう意味?!

 ムガーテに腹をたてて、カッ… と頭に血が上っていたのが… スッ… と引き、アルセの顔が青ざめる。

「愛人に決まっているじゃないか! お綺麗なアルセお兄様は、愛人になるんだよ! クフフフフッ… アハハハハッ…!!」
 ムガーテはベッドの上で笑い転げる。

「嘘だ… そんなの、嘘だ! いくら何でも、叔父様がそんな恥知らずなことをするなんて…!」

「それぐらい、平気でお父様はするさ! だって相手はあの、コルティナ侯爵様だもの!」

「・・・・・・」
 侯爵? コルティナ侯爵……? 何で? 何で僕が…? 何で?! 

「コルティナ侯爵様が、アルセお兄様を欲しがったらしいよ? その紅玉色ルビーレッドの瞳が好きなんだってさ! 良かったねぇ~! すごい人に嫁ぐことが出来てさぁ!! “婚姻の儀”が必要の無い、愛人だけどねぇ~…!! アハハハハッ―――ッ!!」

「・・・・・・」
 そんな… そんな… そんな… 信じられない、僕が愛人だなんて……?!

 ぼうぜんと言葉を失い、笑い転げるムガーテを見つめるアルセに… とどめを刺すように、ムゲーテは追い打ちをかける。

「お父様はね、コルティナ侯爵様にアルセお兄様を愛人に欲しいと依頼されて、僕に指示したんだよ! アルセお兄様からどうやって婚約者のリブレ様を奪えば良いかを! 僕が彼を欲しがっているのを、お父さまは知っていたから、ちょうど良いってさぁ…! クフフフフッ…」 

「・・・っ」

 嘘だ…!


 気が強いアルセが、過剰かじょうに反抗することを予想した叔父は、あえて立派な方だと言葉をにごして、相手が妻子持ちのコルティナ侯爵だと伝えなかったのだ。







しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

付き合って一年マンネリ化してたから振られたと思っていたがどうやら違うようなので猛烈に引き止めた話

雨宮里玖
BL
恋人の神尾が突然連絡を経って二週間。神尾のことが諦められない樋口は神尾との思い出のカフェに行く。そこで神尾と一緒にいた山本から「神尾はお前と別れたって言ってたぞ」と言われ——。 樋口(27)サラリーマン。 神尾裕二(27)サラリーマン。 佐上果穂(26)社長令嬢。会社幹部。 山本(27)樋口と神尾の大学時代の同級生。

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。 しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。 妹は、私から婚約相手を奪い取った。 いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。 流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。 そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。 それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。 彼は、後悔することになるだろう。 そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。 2人は、大丈夫なのかしら。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...