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15話 父の剣と敗北

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 1つずつ自分の持ち物を手に取り、アルセは学園に入学する時、亡き母と一緒に選んで買った、大きなトランクケースの中へ丁寧に片付けてゆく。

 最終学年となり、寮の部屋替えの時に3人部屋から1人部屋を割り当てられ、その時に感じた大きな満足感を思い出しながら… アルセの荷物が消えた、すでに自室ではない、小さな自分の城だった場所をながめた。

 叔父との激しいケンカのすえに…
『そんなに言うのなら、今から学園へ行きお前自身の力で、学園の退学を取り消して来い!! 何度も騒ぎを起こしたお前では、学園側も受け入れることは無いだろうがな! 自分が置かれた現実を、その紅玉色ルビーレッドの瞳で見て来い、アルセ!』
 説得に耳を貸さなくなったアルセの相手を、するのが面倒になったらしく、叔父はそう言いすてた。

『わかりました! なら、そうします!! 学園の学費はが、すでに全額払っているので、学園に復学しても文句を言わないで下さいね、叔父様!!』

『バカな奴だ! 好きにしろ! どうせお前は、いらぬ恥をさらして、泣きながら帰って来ることになるだけだ!』


 叔父に嘲笑ちょうしょうされ… 売り言葉に買い言葉でアルセは書斎を飛びだし、大急ぎで馬車を用意させて学園まで来ると、1人学園長室へと乗り込んだ。

 ……だが、すべて叔父の言う通りになり、アルセは冷たく厳しい現実に、打ちのめされることとなる。


『こんなことになって残念だよ、アルセ君… 君はとても優秀で真面目な生徒だと、私も知っていたから… おかしな醜聞しゅうぶんが、学園内を騒がせることになった時は、何かの間違いだと私は君を信じていた』

『学園長先生… だったら、僕の退学を取り消してください!』

『私も出来ることなら、そうしてやりたい… あともう少しで、君は卒業できるのだから… だが、あまりにも学園生の親たちの反発が強く、この退学を取り消すことは出来ないのだよ』
 学園長は悔しそうに、アルセの肩に手を置き、項垂うなだれた。

『…もしかして、学園生のとは… 僕に嫌がらせをしていた奴の… コルティナ侯爵ですか?』

『やはり、聡明な君にはわかってしまったか…! 大人の事情に君を巻き込みたくは無かった』

 コルティナ侯爵家のジャベたちが、学園内で悪さをやりたい放題していても、学園側も… 学園生側も… 何も言えず、見て見ぬふりをしていたのは、アルセが嫌がらせを受けるようになるよりも、ずっと前からだった。

『悔しいです!! こんなの… 何か方法は無いのですか?!』

『こうなるとどうにもならないのだよ、王国の法律が君の前に立ちふさがっているから …”成人の儀式”を受ける前の君に、自分で選択する権利はほとんど無いんだ』

『こんなのおかしいです! 絶対におかしいよ… 成人の儀式だなんて、卒業してすぐに受ける儀式ものだから、僕は年齢的には成人と同じなのに!!』

『だが今は、王国法で君に関するすべての権限は、保護者である君の叔父上にある… 叔父上の許可が無ければ、学園長の私でも何もしてやれない』



 ベッド脇に立てかけてあった、護身用としてではなく、御守りとして寮の自室に持ち込んでいた、亡くなった父が愛用していた剣を手に取る。
 さやから少しだけ剣を抜き、自分の顔が映るほど綺麗にみがかれた青灰色せいかいしょくの刃を見てから、再び鞘にカチッ… と金属音をさせて剣を戻し、アルセは小さなベッドに腰を下ろす。

「・・・っ」
 ごめんなさい、お父さま…! ごめんなさい…
 
 アルセはひざの上に置いた剣のつかにほどこされた、“大いなる勇気”を象徴しょうちょうする、銀色のユニコーンの装飾に指先で触れる。

 ポタッ… ポタッ… ポタッ… と音を立ててアルセの熱い涙が落ち、銀色のユニコーンを濡らす。


 ずっと耐えて来た、心の痛みにアルセは負けたのだ。






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