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12話 叔父の言葉
しおりを挟むアルファたちに暴行され、アルセが学園の寮からクルシジョ子爵邸に戻り、療養生活を送るようになってから2週間が過ぎた。
本当は1週間前には、学園生活に復帰しようと準備していたアルセだが… 背中をジャベに蹴られた時に、転んで石床で強打してできた顔の痣が、痛々しく残っていたため、現クルシジョ子爵の叔父が…
『まだダメだ! もう少し休みなさいアルセ! オメガがそんなに痛々しく傷ついた顔を、人前にさらしてはいけないよ…? 人前に出る時は、つねに美しい姿でいるように心がけないと… 嫁ぎ先が無くなってしまうだろう?』
……と、アルセが学園に戻ることを許さなかったのだ。
そんなふうに心配されてしまうと、気が強いアルセでもさすがに…
あなたの息子のムゲーテが流した醜聞のせいで、僕自身がどれだけ綺麗にしていても、尻軽あつかいをされるから、嫁ぐのは絶望的だから、意味無いよ?!
……とは言えなかった。
もちろんアルセはムゲーテに裏切られ、婚約者のリブレを奪われたことを訴えたら… 意外にも叔父はアルセの主張をすべて信じて受け入れ、従弟のムゲーテに代わり謝罪してくれた。
そして叔父は…
『必ずアルセに相応しい、良い嫁ぎ先を見つけるから、今は我慢して耐えてくれないか? これ以上、この件で騒ぎが大きくなると… 結局、最後は誰も幸せにはなれないからね?』
『でも、叔父様! 今さら僕に良い嫁ぎ先なんて見つかる訳ないです!』
『そんなのことは無いよ? お前は社交界デビューがまだだから、知らないだろうけどね… アルセのその紅玉色の瞳が綺麗だと、褒めるアルファがたくさんいるんだよ? それに私には、強力なコネがあるんだ!』
『叔父様… でも…!』
『すまないね、アルセ… 辛いだろうけど私を信じて、どうかこのまま耐えてくれ… 頼むよ!』
熱心な説得を受け入れ、アルセは叔父に従うことにした。
「・・・・・・」
そもそも… 僕が騒いだとしても、誰も僕の話を聞こうとしないのだから… 黙って耐えるしかないしね!
醜聞を従弟のムゲーテに流されてから、この数ヶ月の間に、僕は嫌というほど無力感を味わったからわかる…。
叔父様を信じているけど… たぶん、僕の嫁ぎ先は無いと思うよ? やっぱり僕は、邸の奥に隠れて生きるしかないんだ…
苦笑いを浮かべて、ハァ―――ッ… と長いため息をつくと… アルセは鏡の前で自分のあごを、右から… 左から… 下から… と映して見て、自分の顔の痣が薄くなり、目立たなくなったことを確認する。
「…うんっ! これなら大丈夫そうだ!」
そろそろ学園に戻らないと… 成績がどんどん下がってしまいそうだ! ただでさえ嫌がらせで以前よりも、成績が落ちているのに、これ以上、休むと卒業も危ないしね…。
今度こそおじ様も、僕が学園に戻る許可を出してくれるはず! 本音では激しい嫌がらせを受けるとわかっている学園に、戻りたくないけれど… でも、卒業すると決めたから! 絶対に目標を達成しないと!
ニコリ… と鏡にうつる自分に微笑みかけ、『よしっ!』 …とうなずくと、アルセは自室を出て叔父がいる書斎へ行く。
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