竜血公爵はオメガの膝で眠る~たとえ契約結婚でも…

金剛@キット

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11話 母の血

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 実家のクルシジョ子爵家から迎えに来た馬車に乗り、痛む身体をガタ、ゴト… とられながら、アルセは自分を乱暴者のアルファたちから救い出してくれた、銀の髪に金色の瞳の騎士のことを、ボンヤリと思い出していた。


「あの騎士様は… いったい、どこの誰だったのかなぁ…? 助けてもらったのに、しっかりお礼も言えなかったのが、心残りだ…」
 それに… あの人の身体にまとわりいていた、白銀はくぎんのモヤモヤした霧のようなモノに気を取られて… 記憶もすごく曖昧あいまいで… あまり覚えていないし…

 救ってくれた騎士が、アルセを医療室まで運ぼうと、抱き上げたところまでは覚えているが… それ以降の記憶がまったく無い。
 気づいたら医療室で、若い医師に揺り動かされて目覚め、アルセはそれまで診療台で、自分が眠っていたことさえ、知らなかった。

「うう~んん……?」
 あの時はすごく怖くて、動揺していたから騎士様にくっついていたモノが、幽霊ゴーストだと思ったけれど… でも僕が知る幽霊ゴーストはもっと陰鬱いんうつで、うつろな暗い気配がするんだよねぇ…? だから、あの金色の瞳の騎士にいていた白銀のモヤモヤは… もっと違う別の何かだった。 
 ……たぶん…?

 紅玉色ルビーレッドの瞳を閉じて腕組みをし… アルセは自分が気を失う前に見た、最後の光景を思い浮かべて首をかしげる。

「こんな時… お母様に聞けたら、あのモヤモヤの正体がわかったかも知れないけれど…? うう~んんっ……」
 ……と言っても、すでにお母様は亡くなっているし、言っても仕方ないよね…。
 僕のお母様は人の目には見えない、魔モノがえる人だったから… 僕は気配を感じる程度はわかるけど… お母様のようにはえない…。
 でもあの騎士に憑いてた、白銀のモヤモヤは、金色のにらんで来て… 本当に怖かった! あんなに視えたの初めてだよ…。 

 自分と同じ紅玉色の瞳だった、男性オメガの母を思い浮かべ… ハァ―――ッ… とアルセは大きなため息をつく。 


「あ~あ… 思い出したら、お母様に会いたくなって来た!」

 アルセの母方の家は… 紅玉色の瞳を持ち、目に見えない魔モノが視えるオメガが、時々生まれる血筋なのだ。
(アルファの子どもには、紅玉色の瞳は遺伝しないらしい)

 とても珍しくて美しい、紅玉色の瞳を持つアルセの母方の名が、貴族社会でもっと有名であっても、おかしくない話だが…。
 グラーシア公爵のエスパーダが、紅玉色の瞳のオメガが生まれる一族の名を知らないほど、王国ではほとんど無名なのは、それなりの理由がある。

 アルセの母方の実家は、王国のはしに領地を持つディグニダド伯爵家で… いわゆる辺境の田舎貴族だ。

 半分農民で半分貴族という、日々貧しい暮らしをしている、ディグニダド伯爵家の者たちは、領地をほとんど出ることが無い。

 特にアルセのような紅玉色の瞳を持つオメガは、『血のような瞳を持つ、呪われたオメガ』 …だと、ディグニダド伯爵領近辺の田舎では、み嫌われていたため、どこかへ嫁ぐことも望めず… やしきの奥に隠れて一生を終えるのだった。 

 そのため、珍しい紅玉色の瞳を持つオメガの話などが、王都で噂になることも無いのだ。

 そんなディグニダド伯爵家だが、数は少ないが良質な馬の繁殖はんしょくも手掛けていて… その馬の噂を聞いた、良馬の収集が趣味の王弟殿下が、当時護衛騎士だったアルセの父と一緒に、ディグニダド伯爵家を訪れた。

 その時… 
 アルセの父と母は出会い、熱烈ねつれつな恋に落ちて結婚した。


「田舎で隠れるように暮らしていたお母様と、王都で王族の護衛騎士をしていたお父様が、出会った時のように… 僕も運命的な出会いをして、結婚出来たら良いのにねぇ……」

 現実では派手な容姿を嫌われて、婚約破棄され…… 結婚できる見込みがないほどの、醜聞しゅうぶんにまみれてしまっている。

「今は、学園を卒業することを目標にしているから、頑張っていられるけれど… その後、僕はどうすれば良いのぉ……? 怖いよ、お母様… すごく怖い…」
 僕も母方のオメガたちのように… 一生、やしきの奥に隠れて生きて行くのかなぁ……?


 亡くなった母のことを思い出すうちに、アルセの口からポロリと本音がこぼれた。






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