13 / 114
11話 母の血
しおりを挟む実家のクルシジョ子爵家から迎えに来た馬車に乗り、痛む身体をガタ、ゴト… と揺られながら、アルセは自分を乱暴者のアルファたちから救い出してくれた、銀の髪に金色の瞳の騎士のことを、ボンヤリと思い出していた。
「あの騎士様は… いったい、どこの誰だったのかなぁ…? 助けてもらったのに、しっかりお礼も言えなかったのが、心残りだ…」
それに… あの人の身体にまとわり憑いていた、白銀のモヤモヤした霧のようなモノに気を取られて… 記憶もすごく曖昧で… あまり覚えていないし…
救ってくれた騎士が、アルセを医療室まで運ぼうと、抱き上げたところまでは覚えているが… それ以降の記憶がまったく無い。
気づいたら医療室で、若い医師に揺り動かされて目覚め、アルセはそれまで診療台で、自分が眠っていたことさえ、知らなかった。
「うう~んん……?」
あの時はすごく怖くて、動揺していたから騎士様にくっついていたモノが、幽霊だと思ったけれど… でも僕が知る幽霊はもっと陰鬱で、虚ろな暗い気配がするんだよねぇ…? だから、あの金色の瞳の騎士に憑いていた白銀のモヤモヤは… もっと違う別の何かだった。
……たぶん…?
紅玉色の瞳を閉じて腕組みをし… アルセは自分が気を失う前に見た、最後の光景を思い浮かべて首を傾げる。
「こんな時… お母様に聞けたら、あのモヤモヤの正体がわかったかも知れないけれど…? うう~んんっ……」
……と言っても、すでにお母様は亡くなっているし、言っても仕方ないよね…。
僕のお母様は人の目には見えない、魔モノが視える人だったから… 僕は気配を感じる程度はわかるけど… お母様のようには視えない…。
でもあの騎士に憑いてた、白銀のモヤモヤは、金色の眼で睨んで来て… 本当に怖かった! あんなに視えたの初めてだよ…。
自分と同じ紅玉色の瞳だった、男性オメガの母を思い浮かべ… ハァ―――ッ… とアルセは大きなため息をつく。
「あ~あ… 思い出したら、お母様に会いたくなって来た!」
アルセの母方の家は… 紅玉色の瞳を持ち、目に見えない魔モノが視えるオメガが、時々生まれる血筋なのだ。
(アルファの子どもには、紅玉色の瞳は遺伝しないらしい)
とても珍しくて美しい、紅玉色の瞳を持つアルセの母方の名が、貴族社会でもっと有名であっても、おかしくない話だが…。
グラーシア公爵のエスパーダが、紅玉色の瞳のオメガが生まれる一族の名を知らないほど、王国ではほとんど無名なのは、それなりの理由がある。
アルセの母方の実家は、王国のはしに領地を持つディグニダド伯爵家で… いわゆる辺境の田舎貴族だ。
半分農民で半分貴族という、日々貧しい暮らしをしている、ディグニダド伯爵家の者たちは、領地をほとんど出ることが無い。
特にアルセのような紅玉色の瞳を持つオメガは、『血のような瞳を持つ、呪われたオメガ』 …だと、ディグニダド伯爵領近辺の田舎では、忌み嫌われていたため、どこかへ嫁ぐことも望めず… 邸の奥に隠れて一生を終えるのだった。
そのため、珍しい紅玉色の瞳を持つオメガの話などが、王都で噂になることも無いのだ。
そんなディグニダド伯爵家だが、数は少ないが良質な馬の繁殖も手掛けていて… その馬の噂を聞いた、良馬の収集が趣味の王弟殿下が、当時護衛騎士だったアルセの父と一緒に、ディグニダド伯爵家を訪れた。
その時…
アルセの父と母は出会い、熱烈な恋に落ちて結婚した。
「田舎で隠れるように暮らしていたお母様と、王都で王族の護衛騎士をしていたお父様が、出会った時のように… 僕も運命的な出会いをして、結婚出来たら良いのにねぇ……」
現実では派手な容姿を嫌われて、婚約破棄され…… 結婚できる見込みがないほどの、醜聞にまみれてしまっている。
「今は、学園を卒業することを目標にしているから、頑張っていられるけれど… その後、僕はどうすれば良いのぉ……? 怖いよ、お母様… すごく怖い…」
僕も母方のオメガたちのように… 一生、邸の奥に隠れて生きて行くのかなぁ……?
亡くなった母のことを思い出すうちに、アルセの口からポロリと本音がこぼれた。
8
お気に入りに追加
403
あなたにおすすめの小説

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?
あだち
BL
戦場帰りの両刀軍人(攻)が、女王の夫になる予定の貴公子(受)に心当たりのない執着を示される話。ゆるめの設定で互いに殴り合い罵り合い、ご都合主義でハッピーエンドです。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら
キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。
しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。
妹は、私から婚約相手を奪い取った。
いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。
流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。
そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。
それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。
彼は、後悔することになるだろう。
そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。
2人は、大丈夫なのかしら。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる