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8話 紅玉色の瞳を持つオメガ エスパーダside
しおりを挟む学園の医療室へと向かって歩きながら、エスパーダは腕の中で気絶したオメガの学園生を見下ろし… 少し前に見た光景を思い浮かべて、感嘆のため息をついた。
「本当に信じられない… 紅玉色の瞳を持つ人間が、私の目の前にいるなんて!」
建国神話に登場する、強力な魔力を持つ魔導士や魔法騎士たちのほとんどが、紅玉色の瞳を持っていたが… それは、あくまでも神話の中の話だ。
現代の王国では、騎士は存在していても、魔法や魔獣などは遠い昔に消え失せ、その痕跡や遺物が遺跡などで見つかる程度で、瞳の色についても同じである。
だが、エスパーダの腕の中のオメガは、美しい赤みを帯びた金髪で、肌は白くても、健康的な範囲の艶やかな色をしている。
このような存在は極めて珍しい。
「できれば… この子と話をしてみたいな…?」
グラーシア公爵家に保管されている、古い時代に生きた先祖たちの肖像画でなら、見たことはあるが… 生きた人間で紅玉色の瞳を持つ者を、見たのは初めてだ!
この子の瞳は、鮮やかで美しく、魂を奪われそうな、強い輝きを放っていた… もう一度、あの瞳を見てみたい!
500年前のグラーシア地方に住み着いていた、ティエーラの竜と婚姻の契りを結び、その血を取り込み強力な魔力を得て、王国を脅かした敵国(現在は滅亡している)と戦い、守り抜いたとされている、エスパーダの先祖の初代グラーシア公爵も紅玉色の瞳を持っていた。
「これは… 私の身体に流れる竜血の導きだろうか…?」
私がこの学園に到着した瞬間から、ゾクッ… ゾクッ… と鳥肌がたつような悪寒がして… 以前経験した国境沿いの見回りで、突然、暗殺者たちに襲撃された時のように、ピリピリとした緊張感が体内を駆け巡った。
あの時の感覚と同じだと感じ… 私は、『ここで何かが起きる?!』 …と周囲を警戒することにした。
他の騎士たちに比べて、私はその手の感覚が鋭いのだ。
予想通り、学園長室へ向かう途中で不穏な空気を察知して、3人のアルファに暴行を受けるオメガを、見つけた。
運良くアルファたちの暴行を止められたのは、私がずっと周囲を警戒していたからだ。
「・・・・・・」
これは偶然か?! それともティエーラの竜の意志か? あるいは、私の運命の相手なのか…? この子が運命の相手だとしたら、さっきのように、私を怖がり怯えられてしまったら… 面白くないな…
私を怖がらないで欲しいと… 心の内で神に祈りながら、エスパーダは苦笑を浮かべる。
紅玉色の瞳を見てから、自分の腕の中で眠るオメガに対して、ただならぬ執着心を抱きつつあることを、エスパーダ自身も自覚していた。
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