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7話 金色の瞳の騎士2 エスパーダside
しおりを挟む冷たい石床で横たわる、アルファたちにひどい暴行を受け、身体を痛めつけられたオメガの学園生を、エスパーダは医療室へ運ぼうと抱き上げると…
それまでグッタリとしていたオメガの学園生が、エスパーダの腕の中で身体をガタガタと震わせ、怯えた表情を浮かべて、突然暴れだした。
「怖がらなくて良い、落ち着くんだ! 大丈夫だから…!」
危ない…! こんなに暴れられたら、落としてしまう! 私は助けてやりたいだけなのに、よけいなケガを増やしてしまいそうだ! 困ったな… だが、一方的にアルファたちから乱暴され恐怖を味わった後だから、オメガの本能で知らないアルファに対して、怯えて警戒するのも当然だ!
初めて会った私というアルファの存在自体が、この子を動揺させてしまっているのだろう…
元々、すべてにおいて極めて優秀で、高い能力を持つ血筋の直系として生まれた、エスパーダという人物と初めて対面した人々は… オメガに限らず、ベータやアルファでさえその存在に、威圧され緊張を強いられるほどである。
「ああっ…! 何これ?! 怖い! やだ! やだ、来ないで! いやああぁぁぁ―――っ!!!!」
エスパーダの腕の中で恐怖の叫び声をあげ… オメガの学園生は不意に気絶してしまう。
「おい、君…? おいっ…?!」
気を失ってしまったのか…?! かわいそうだが、まぁ仕方ないか… 暴れられてケガをさせるよりは良い!
ホッ… とため息をつき、気絶したオメガの学園生をかかえ直す。
エスパーダは医療室へ向かって歩き始めたが… ふと、足を止めて振り返り、オメガの学園生を暴行したアルファたちを睨みつけた。
「そこのお前… さっき、コルティナ侯爵家の者だと言ったな?! 私は今見たことを、すべて学園長に報告するつもりだ! お前たち、覚悟しておけよ?! 自分たちの行動に、責任を持たないお前たちが悪いんだ! いまさら後悔してもおそいからな!」
昔、いろいろと世話になった学園長に、会いに来たついでに、躾の悪い駄犬どもが、学園内で悪さをしていたことぐらいは、知らせてやらないと… 学園長が後で苦労することになっては、気の毒だからな…
王国内の上位貴族の1人であるエスパーダ自身も、数年前までこの学園に在籍していた。
「なっ…! 何だと?! クソッ… いったい、あんたは誰だよ?! オレたちは何も悪くない、その尻軽オメガが悪いんだ! どうせ、そのオメガがどういう奴かあんたは知らないで、言っているんだろう?! 」
ジャベがあわてて言い返すと、その場にいたメサとノチェも、悪友を援護するように怒鳴った。
「そうだ! そいつのことを知ったら、後悔するのはあんたの方だ!!」
「オ… オレたち、コルティナ家門の者にケンカを売ってまで、そんな尻軽オメガを庇うなんて、どうかしているぞ!」
コルティナ侯爵家は現王妃を出したことで、急速に力を持った家門である。
ジャベたちコルティナ家門の学生が、以前から学園内で横暴な振る舞いをしていても… 学園生たちだけでなく、教師たちまで見て見ぬふりをするのは、王家に顔が利くコルティナ侯爵家の力を、恐れているからだった。
「フンッ…! くだらない戯言を聞かせるな!」
本当にこいつらは、世間知らずのアホだな?! せっかく親が立派な権力を得ても、このアホ息子どもは家門の名を、自分たちのお遊びで醜く汚していると… その自覚さえ無いなんて…! 本当に躾が悪い! それとも、こいつらの親も、救いようのないアホなのか?!
乱暴者たちの子どもっぽい言葉にあきれて、エスパーダは嘲笑を浮かべた。
「…戯言だと?! コルティナ侯爵家を侮辱する気か?! オレもこのことを父上に、報告するからな?! 絶対、あんたを後悔させてやる… 謝罪するなら、今のうちだぞ?!」
「躾の悪い駄犬に、謝罪するための言葉など、私は知らない! …そんなにケンカがしたければ、いつでも相手になってやるから、グラーシア公爵家に来い! …ただし、その時はお前にその行動の責任を、必ず取らせるからな!! 私は子供のお遊びで済ませるほど優しくはないぞ! コルティナ侯爵にも、私の言葉をすべて伝えておけ!」
フンッ…! と鼻を鳴らし、エスパーダは金色の瞳で冷ややかに見つめ、その場を去る。
相手の名前を聞き、その場に残された乱暴者たちは… ゾクリッ… と不気味な寒気を感じて、背中を震わせた。
「なっ! あの男、今… グラーシア公爵家と言ったか…?! 建国神話に出てくる、ドラゴンと結婚したとかいう、あの… グラーシアの竜血公爵か?!」
「アルファの血が強過ぎて、残虐非道の狂戦士が生まれる呪われた血筋だから… 公爵領から滅多に出てこないと聞いたことがある… そ… そんな人間が何で、こんな場所にいるんだ?! あの人が公爵本人なのか?!」
「そ… そんなの、オレが知るかよ?!」
3人は顔を強張らせて、呆然とする。
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