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6話 金色の瞳の騎士
しおりを挟む金色の瞳の騎士は、横たわるアルセと視線が合った瞬間、ハッ… と息をのんだ。
驚いたようすで騎士はアルセの顔を、熱心に見つめ… アルセも騎士の姿にぼんやりと視線が吸い寄せられるように見つめ続ける。
「・・・っ?」
あれ…? 何だろう……?! 騎士様のまわりにモヤモヤと… 白… いや白銀の霧? 湯気? んん?
痛みでぼやけるアルセの視界の中… 騎士の身体に白銀の霧がからみつき、意志のある生き物のようにゆらゆらと動きながら、金色に光る2つの眼らしきもので、アルセを睨んでいるように見えた。
「んん……?」
白銀のモヤモヤした霧が… 僕を睨んでいる?! あれは、僕の幻覚? 殴られ過ぎて… さっき背中を蹴られた時に、顔を強く打ち付けたから… 幻覚が見えるの?! たぶん… 気のせい? …だよね?
自分の目がおかしくなったのか? とアルセは目を細めてみたり、まぶたをパチパチと開いたり、閉じたりして、何度も確認したが… 白銀の霧は消えることは無く、騎士に纏わりついたままアルセを睨み続ける。
「君…! 大丈夫か…?!」
騎士は心配そうに顔を曇らせ、アルセの前まで来ると… 膝をつき力強い手で廊下に転がるアルセを、そろりそろりと傷をいたわりながら抱き起こす。
「うううっ…!」
痛い…っ! 息をするたびに背中だけでなく、石床に強く押し付けられた、あばら骨まですごく痛むよ…! クソッ…!!
蹴られた背中と、石床に打ちつけた肘… 前日に挫いた足… 石床に押し付けられたあばら骨… 痛まない部位のが少ないぐらいで… アルセはうめき声を上げた。
「そうだな… 大丈夫な訳がないな…! まったくどこにでも、クズはいるものだ!」
騎士は乱暴者のアルファたちにも聞こえるよに、威圧感のある低い声で罵り、アルセを見下ろした。
「あっ… ありがとうご…ざ… ううぅ…! ううっ…」
「綺麗な顔がだいなしだな… 本当に何て奴らだ…!」
騎士服の内ポケットからハンカチを出して、騎士はそっとアルセの切れた唇ににじむ血をぬぐう。
「うくぅ…っ…!」
唇をハンカチでぬぐわれた刺激で、ビリッ… と痛みを感じ、アルセが顔をしかめると…
「血が止まるまで、唇をこれで押さえて…」
「は…い…」
アルセは騎士のハンカチを、痛まない方の手で受け取り、自分の唇を押さえた。
本当は口の中まで血の味がして、気持ち悪く… その場でペッ… と吐き出したかったが我慢した。
「医療室へ行こう…!」
「え…?! わぁっ… ああっ!!」
…やっ! そんな… 初めて会ったばかりの人に、抱っこされるなんて… いくら何でも恥ずかしいよぉ!!
突然騎士に抱き上げられ、動揺したアルセが顔をあげると… 正体不明の白銀の霧が、アルセの顔までゆらりと伸びてきて、金色の眼が自分の顔を見つめていることに気付く。
「ひいっ?!!!」
変だよコレ?! いったいコレは何なのこれ? もしかして幽霊?!
アルセはギョッ… と固まった。
白銀の霧の大きな口がパカリッ… と開いて、まるで正体不明の霧が、自分を見て嘲笑っているように、アルセの目に映る。
「そう、あわてるな… 落とさないから、大丈夫だ!」
「ひいっ… ああっ…幽霊が… ああっ… 幽霊が!! やっあ…!」
これは何?! 何これ?! やっぱり幻覚ではないの?! 幽霊だ! ああっ… やだっ!! 金色の目が僕を見つめてる!! 怖い、怖い…!! やだ! やだ! 呪われるぅ! やだぁ…っ!
騎士の腕の中で身体を突っ張らせ、アルセは幽霊のような正体の分からないモノに対する恐怖で、ガタガタと震える。
「怖がらなくて良い、落ち着くんだ! 大丈夫だから…!」
騎士はアルセをなだめようとするが… 混乱状態におちいったアルセの耳には、騎士のなだめる声が届かなかった。
「ああっ…! 何これ?! 怖い! やだ! やだ、来ないで―――っ!」
大口を開けた、幽霊のような白銀の霧がアルセの頭をパクリッ… と食った。
「落ちつくんだ…?!」
「いやああぁぁぁ―――っ!!!!」
アルセの混乱と動揺はピークを突き抜け、精神と肉体の限界を超え… 騎士の腕の中で気絶してしまう。
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