竜血公爵はオメガの膝で眠る～たとえ契約結婚でも…

４話 学園生活４ ※暴力注意

　普段から人のいる気配がほとんどしない、西館の資料室へ連れ込まれる前に、自分の腕をつかむ手に噛みつくことで、アルセは辛うじてアルファたちの足を止めることが出来た。

　だが…　アルセ自身も冷たい石床の廊下にうずくまり、お腹を殴られた痛みで身動きが取れなくなる。


「ううっ…　くぅ……　ううっ！」
　痛い…　身体がバラバラになりそうだ……　早くこの場から逃げないと…　逃げないと…！！　　お腹が痛くて吐はきそう…　うううっ痛い…　痛い……　でも急がないと…　急いで逃げないと…！！

　その場から逃げ出そうと、アルセは気力をふり絞しぼり…　よろよろと身体を起こしたが……

「この尻軽オメガが―――っ！！」
　大声で怒鳴り、アルセに手を噛みつかれたジャベは、顔を真っ赤にして立ち上がろうとするアルセの細身の背中をドスッ…！　と鈍い音を立てて乱暴に蹴けった。　

　自分よりも弱者の、オメガのアルセに反撃され驚いてあわてたジャベは、コルティナ侯爵家の直系の血筋である者のプライドを傷つけられ、より凶暴きょうぼうさが増していた。

「ううっ…！！」
　廊下の真ん中で、アルセはたたきつけられるように、勢いよく顔から倒れ…　そのひょうしに石床で顔を強く打ち、唇が切れて出血していた。　
　すり減った石床にポタッ…　ポタッ…　としたたり落ちた、アルセの鮮血で小さな赤い染みができる。

「くっ……」
　早く…　こいつらから逃げないと…！　逃げないと…っ！！
　
　ぶるぶると震える腕で身体を支え、アルセは再び立ち上がろうとするが…　背中の上からジャベの大きな足で、石床に押し付けるように体重をかけて踏みつけられ、立つことが出来なかった。

「このオメガが…！！　よくもオレの手を…！！　クソッ…！！　クソッ…！！　生意気な奴がぁ！！　このオレにケガをさせるなんて！！」
　口から唾を飛ばし、ジャベは怒鳴り声をあげる。

「ぐふっ…　うっ…！　うぐっ…！　ぐぅ…っ！　ぐっ！！」
　ううっ…　息が…！　石床に押し付けられて…　胸が…　上手く息が吸えない…　息が…　出来ない！　苦しいぃぃ…！　

「クソッ…！　この尻軽オメガ！！　このクソッ…！！」
　アルセの肺から空気を押し出すように…　激怒したジャベはドスッ…！　ドスッ…！　ドスッ…！　とアルセのすらりと細い背中を、気が狂ったように何度も踏みつけた。

「・・・っ」
　もうダメぇ…　もう…　死んじゃうよぉ…ダ…メ………

　ミシミシとあばら骨が軋きしむほど、強く背中を踏まれ…　上手く呼吸が出来ず、アルセの意識がフワリと遠のき始めた頃…




「お前たち、何をしているんだ―――？！！！」

　誰かが…　アルセに暴行を加えるジャベたちに、怒鳴り声をあげながら止めに入った。