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3話 学園生活3 ※暴力注意
しおりを挟むお腹を殴られ、今にも吐きそうなほど気分が悪くて、助けを呼ぶ声を上げることも出来ず… アルセは顔をあげて、すれ違う学園生たちに助けを求めて視線を送った。
「……うっ!」
誰か…! 誰か助けて…っ! せめて、僕が危ないと… 教師の誰かに伝えてっ!! お願いだよ… 誰か…! 誰でも良い…… 助けて―――っ!!
切実に助けて欲しいと願い、アルセは学園生たちを必死に見つめ、紅玉色の瞳で懇願した。
「ううっ… くっ…!」
止めに入るのは難しいのは分かるけど… お願いだから、誰か… 助けを呼んで来て! お願いだよ! 本当にこのままだと僕は、この卑怯者たちに強姦されてしまうよ!!
同じオメガなら、強姦されるかもしれないという恐怖を、きっと理解してくれるはずだと… アルセは必死で見つめたが… オメガの女子にも、オメガの男子にも… アルセの願いは誰にも届かない。
普段から学園でも暴力的な問題児で有名なアルファたちに、アルセがずるずると引きずられ、どこかに連れ去られようとしている姿を見ても… 学園の生徒たちは、ひそひそと陰口をたたくばかりで、誰一人としてアルセを心配し、救おうとする者はいなかった。
それどころか… 面白い話の種になりそうだと、ニヤニヤと笑みを浮かべ、興味津々で見送る者までいる。
“他人の不幸は蜜の味” だと… 恐らくは、酷い目に遭わされそうになっているアルセの姿を、劇場で演劇鑑賞でもしている気分で、喜んでいるのだろう。
学園生たちと、何人もすれ違い… アルセは自分を助けようとする人間は、学園の中にはいないのだと理解し、絶望する。
「・・・・・・」
どうして人間って… こんなに残酷なんだろう?! たかが… 自分たちの欲望や好奇心を、満たすためだけに他人をここまで辱めて、痛めつけるなんて… どうして?!
それなのに僕は、友達でもない大嫌いな奴らの、欲望を満たす玩具にされようとしている!! どうして好き勝手に、僕が犯されなければいけないのさ?! こんなの絶対に納得できないし… 絶対に許せないよ!! こんな奴らに、僕は絶対負けたくないよ!!
殴られたお腹が吐きそうなほど痛い。 昨日痛めて腫れが引かない足も痛い。 それに転んだ時、石床に打ち付けた肘も、じんじんと痛い。何より裏切られて見捨てられた、心が痛い。
従弟のムゲーテと元婚約者リブレの裏切りで名誉を傷つけられ、学園中の嫌われ者になってからは… これ以上のトラブルを避けたくて、アルセは静かに目立たないよう気をつけて来た。
だが… 身体をボロボロに痛めつけられて、アルセの怒りは頂点に達し、頭の中でパチンッ…! と何かがはじけた。
「・・・っく!」
この卑怯者たちにこのまま、簡単に負けてたまるか!! 力で負けるにしても… このまま素直に負けたりしないからな!! 絶対に… 絶対に… 後悔させてやる!!
アルセは自分の腕をつかむ、コルティナ侯爵家のジャベの手に、肉を切り裂き骨を砕いてやるつもりで、ガチッ…! と思いっきり噛みついた。
骨太でごつくて硬い、アルファの手に… 獰猛なオオカミのように2本の犬歯をギリギリとめり込ませ、アルセは自分の顎が、はずれるのではないかと思うほど、強く… 強く… 力いっぱい噛みつく。
「痛っててててぇ――――――っ?!!! クソッ…!!」
アルセに噛みつかれたジャベが、大声で悲鳴をあげる。
「・・・ぐっ・・」
絶対に後悔させてやるぅ…!! 僕に乱暴して玩具にしようとするこいつらを、後悔させてやるっ…!!
噛みつかれたジャベは、あわててアルセを放すが… アルセはつかまれていた腕を放されても、噛みつくのを止めなかった。
「痛ってえぇぇぇぇ―――っ!!! クソッ放せ! このバカオメガ!! 放せっクソッ…!! 痛ってぇ―――っ!!!!」
噛みつくアルセの顔をつかみ、ジャベは自分の手を夢中で引っ張るが… 放そうとしないアルセの歯が、よけいに皮膚を裂き喰い込んだ。
「チッ…! 面倒だな! ジャベ! お前、何やってるんだよ…?! ドジだな!」
「おい、おい! マズイぞこいつ!! お前の手の肉を食いちぎる気だ!!」
一緒にいた2人のアルファ、メサとノチェもあわててアルセの髪や服を引っ張り、引き離そうとするが… さらにジャベの手にアルセの歯が食い込み……
「痛てててててっ… バカッ! 止めろノチェ! …引っ張るな!! 痛ってえぇ!! クソッ…! この尻軽オメガがぁ…!!」
噛みつかれたジャベは、アルセのお腹を拳で何度も殴った。
「ぐぅっ……! ぐううっ………! ううっ! はぁ… ううっ…!」
息が出来ない…っ! お腹が痛くてっ… 息が… うううっくぅ…!! 痛すぎて、気持ち悪い… 吐きそう… うううっ…
どれだけ負けず嫌いでも、さすがに弱点のお腹を殴られては、噛む力がいっきに弱まりジャベの手を放して、アルセはその場に崩れ落ちる。
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