上 下
2 / 114

1話 学園生活

しおりを挟む
 クルシジョ子爵家の令息オメガのアルセは、痛めた足をかばいながら、学園の廊下をのろのろと歩いていると… 廊下の向かい側から、体格の良いアルファの3人組が、楽し気な笑い声をあげながら歩いて来るのに気づき、顔を強張らせる。

 普段からアルセに嫌がらせをしてくる、高位貴族出身のアルファたちで… アルセが足を痛めた原因も、前日このアルファたちの1人に、足を引っかけられたからだった。


「嫌だなぁ…」
 アルセはぽつりとつぶやき… 珍しい紅玉色ルビーレッドの瞳にかかる、赤みがかった派手な金髪を、イライラと頭を振って払いのける。

「・・・・・・」
 こんな、誰も人がいないところで… もう、どうしよう! きっとあいつらに嫌がらせをされるに決まっている! まわりに人がいる場所にいるよう… ずっと気を付けていたのに! 

 歩みを進めるごとに捻挫ねんざした足が痛み、うつむいた顔をゆがめながら、アルセはゆっくりと歩き… 自分とすれ違う時、3人組のアルファたちの進路をふさがないよう、廊下のはしに寄る。

 だが……
 すれ違いざま、3人のうちの誰かがわざと、アルセの肩にドスッ…! とぶつかった。

「あっ…!!」
 クソッ…! やられた―――っ!! 

 アルセは、体格の良いアルファにはね飛ばされ、手に持っていた筆記具と教材を落として、廊下に転んでしまう。

「ううっ… くっ……! ううっ…」
 早く立たないと、もっと嫌がらせをされてしまう…っ! でも、痛い! ううっ… ひじが痛くて涙が出そう!! 痛いよぉ……

 石床に倒れた時、肘を強く打ち付けじんじんと痛むが… なんとか上半身だけは起こして廊下に座り、アルセは肘を押さえてうめき声をあげた。


「おいおい、尻軽オメガがオレたちを誘惑する気らしいぞ?!」
 げらげらと下品に笑うリーダー格のアルファ、コルティナ侯爵家の3男、ジャベが口を開いた。
 学園内でも乱暴者で有名な男である。

「そんなに相手して欲しいなら、その小さい尻を今からオレたちが可愛がってやっても良いぜ?」

「僕… 僕は尻軽じゃない! 誘… 誘惑なんか… してないから!! 君… 君たちなんかに… 僕はぜんぜん興味無いし…っ!」
 ここは学園の中だぞ?! 何を言っているんだ、こいつらは?! 頭がおかしいのか?! いつも思うけど、本当になんてバカなんだ?!

 今までは何を言われても、黙って聞き流していたが… 1人の時を襲われておびえきったアルセは、恐怖で声を震わせながら、聞く耳を持たない相手に、何を言っても無駄だとわかっていても抗議した。 


「なぁ… 滅多めったに人が来ない、西館の資料室なら、ヤレるんじゃないか?」
 ジャベの実家コルティナ侯爵家の家門(親戚)のメサが、ジャベに迷惑な入れ知恵をする。

「ああ、あそこなら丁度良いな! バレてもこいつがオメガのフェロモンで、オレたちを誘惑したと言えば、みんな、オレたちを信じるだろうし…!」
 同じくコルティナ侯爵家、家門のノチェが… ニヤニヤと笑いながら悪知恵を競うように、メサの提案に自分の意見を付け加えた

 アルファ3人の目が、欲望でギラギラと不穏ふおんな光を放っていることに気づき、アルセは青ざめる。

 それどころか、3人が放ったアルファのフェロモンが、モワモワ漂って来て… アルセはあわてて口と鼻を手のひらで押さえ、フェロモンを吸わないようにした。

「な・・・っ?!」
 気持ち悪い!! 気持ち悪いよ! こいつらのフェロモンなんか…!! 嫌だ、感じたくないよ! 嫌だ! 嫌だ!! 信じられない! 抑制剤は飲んでいるけど、アルファ3人分のフェロモンを吸い続けたら、さすがに発情しちゃうっ…! 絶対にそんなの耐えられない!!

 アルセは逃げようとヨロヨロと立ち上がるが、昨日くじいた足が痛んで、再び廊下にひざをついてしまう。


「クックック… 見ろよ、オレたちに尻を差し出してるぜ! どうやら、コイツは今すぐ突っこんで欲しいらしいな!」

「どれだけ淫乱いんらんなんだ?!」


 肘を石床に打ち付け、じんじんと痛むアルセの手を… アルファたちにグイッ… と引っ張り上げられ、アルセは大声で悲鳴をあげた。
「痛っ… 止めろっ! 止めっ…ひぃ… うあああぁぁ―――っ!!」


「うるせぇ… 黙れ!」
 痛がるアルセの都合など関係なく、アルファたちは両脇からグイグイと力まかせに引っ張る。

「止めて!! ううっ… 痛い! 痛いっ…!! 君たちはどうかしているよっ…! 放せっ… 放せよ―――っ!」
 ずっとこいつらに狙われていたのは知っていたけど… 本当に僕を犯す気なのか?! 嫌だよ! 嫌だ!! そんなの絶対に嫌だ!!

 痛みと恐怖で大声でさけび、アルセは死に物狂いで暴れた。


「クソッ…! こいつ… 黙れ!!」

 アルファの大きなこぶしでアルセはお腹を殴られ… さけび声をあげる力を一瞬で奪われる。
「ぐふっ…?!!」

 ぐったりとしたアルセは両脇から腕と肩をつかまれ、アルファたちに西館の資料室に向かって、ズルズルと引きずられて行く。

 




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...