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第4章 映画祭編
102話 迷い
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人けの無いジムで、蘇芳は本日2度目の鍛錬に励んでいた。
自分の身体に集中し、ゆっくりと深呼吸をしてから蘇芳が腕を下ろすと…
パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! と気持ちの良い静寂を破る、不躾な拍手が鳴る。
「・・・っ」
眉をひそめ、蘇芳はチッ…! と舌を鳴らすと、耳障りな音がする方を向く。
「やぁ! やぁ! やぁ! 良いねぇ~!! とても素晴らしい動きだ」
蘇芳の機嫌を損ねたことなど少しも気にせず、ニック・カールトンはニヤニヤと笑っていた。
「・・・・・・」
興奮するニックを蘇芳は無言でにらむ。
「悪かったよ昨夜は… その… 謝罪に来たんだ、許して欲しいんだジョーンを!」
「何ですって?!」
自分は全く悪く無いと思っている様子のニックに、蘇芳は目をむく。
「明日の授賞式で、B.Dの制作発表をするつもりなんだ、ジョーンの悪ふざけを、誰にも言わないで、君には黙っていて欲しくてね?」
両手の指を組み合わせ、もじもじと動かし… ニックは媚びるように笑う。
「あなた… よく、そんなことが言えますね?!」
<すべてジョーンが悪く、僕に薬を飲ませたニック自身は、関係無いという言い方だ!>
つまり…ゴシップにしたくないという話だが…
ニックの立場からすれば、蘇芳に口止めを依頼するのは当然と言えば当然である。
だが、誠意の欠片も無いニックの態度に、蘇芳の怒りが3倍になった。
「アーサーもB.Dの続編を待ち望んでいるし… もし君がゴシップをもらせば、 G.I社が困ることになるよ?」
「G.I社が?」
いぶかし気に蘇芳が聞き返すと…
「続編の話を先に持ち掛けてきたのはアーサーの方だよ、G.I社との事業計画でね‥ 映画が失敗したら大損害さ!」
もじもじと動かしていた手をニックは、パッ… と開き、『ボンッ…!』 と自分で効果音を付けた。
「・・・っ!」
ナイツベリーに着いた日、レストランで誇らしげに町とG.I社の話を語っていたアーサーを思い出し、蘇芳は苦い顔をする。
「だから頼むよ~! ね?」
ニックは蘇芳の肩をたたいて、手を勝手につかみ… べたべたと汗ばんだ手で握りしめた。
「アーサーと相談してみます」
ニックの手の中から自分の手を引き抜き、ぐっ… と拳を握る。
悔しくて悔しくて、蘇芳はそれだけ言うのがやっとだった。
「良かった! 君なら理解してくれると思ったよ!」
満面の笑みを浮かべ、ニックは去る。
ぼんやり蘇芳が立ちつくしていると、アーサーがジムまで迎えに来た。
「単独行動は止めろと、今朝言ったはずだ! 黙っていなくなるな!」
アーサーは暗い目で、蘇芳を見つめた。
「ニックが… あなたが損をするからジョーンのことは言うなと…」
「・・・・・・」
アーサーは無言だった。
「やっぱり本当なんだ… なぜ何も言ってくれなかったのですか?」
「私も迷っていた… 君には告発する権利がある」
「…言いません、言えるわけがない!」
「部屋に戻ろう」
アーサーに背中を押され、蘇芳はとぼとぼと歩き出す。
自分の身体に集中し、ゆっくりと深呼吸をしてから蘇芳が腕を下ろすと…
パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! と気持ちの良い静寂を破る、不躾な拍手が鳴る。
「・・・っ」
眉をひそめ、蘇芳はチッ…! と舌を鳴らすと、耳障りな音がする方を向く。
「やぁ! やぁ! やぁ! 良いねぇ~!! とても素晴らしい動きだ」
蘇芳の機嫌を損ねたことなど少しも気にせず、ニック・カールトンはニヤニヤと笑っていた。
「・・・・・・」
興奮するニックを蘇芳は無言でにらむ。
「悪かったよ昨夜は… その… 謝罪に来たんだ、許して欲しいんだジョーンを!」
「何ですって?!」
自分は全く悪く無いと思っている様子のニックに、蘇芳は目をむく。
「明日の授賞式で、B.Dの制作発表をするつもりなんだ、ジョーンの悪ふざけを、誰にも言わないで、君には黙っていて欲しくてね?」
両手の指を組み合わせ、もじもじと動かし… ニックは媚びるように笑う。
「あなた… よく、そんなことが言えますね?!」
<すべてジョーンが悪く、僕に薬を飲ませたニック自身は、関係無いという言い方だ!>
つまり…ゴシップにしたくないという話だが…
ニックの立場からすれば、蘇芳に口止めを依頼するのは当然と言えば当然である。
だが、誠意の欠片も無いニックの態度に、蘇芳の怒りが3倍になった。
「アーサーもB.Dの続編を待ち望んでいるし… もし君がゴシップをもらせば、 G.I社が困ることになるよ?」
「G.I社が?」
いぶかし気に蘇芳が聞き返すと…
「続編の話を先に持ち掛けてきたのはアーサーの方だよ、G.I社との事業計画でね‥ 映画が失敗したら大損害さ!」
もじもじと動かしていた手をニックは、パッ… と開き、『ボンッ…!』 と自分で効果音を付けた。
「・・・っ!」
ナイツベリーに着いた日、レストランで誇らしげに町とG.I社の話を語っていたアーサーを思い出し、蘇芳は苦い顔をする。
「だから頼むよ~! ね?」
ニックは蘇芳の肩をたたいて、手を勝手につかみ… べたべたと汗ばんだ手で握りしめた。
「アーサーと相談してみます」
ニックの手の中から自分の手を引き抜き、ぐっ… と拳を握る。
悔しくて悔しくて、蘇芳はそれだけ言うのがやっとだった。
「良かった! 君なら理解してくれると思ったよ!」
満面の笑みを浮かべ、ニックは去る。
ぼんやり蘇芳が立ちつくしていると、アーサーがジムまで迎えに来た。
「単独行動は止めろと、今朝言ったはずだ! 黙っていなくなるな!」
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「・・・・・・」
アーサーは無言だった。
「やっぱり本当なんだ… なぜ何も言ってくれなかったのですか?」
「私も迷っていた… 君には告発する権利がある」
「…言いません、言えるわけがない!」
「部屋に戻ろう」
アーサーに背中を押され、蘇芳はとぼとぼと歩き出す。
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