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第4章 映画祭編
81話 エスコート
しおりを挟むアーサーと蘇芳は、自分たちが宿泊するガーランドホテルのロビーのスミに置かれたソファーに座り、今夜の同行者たち、アーサーの伯父オリバーと、その恋人と娘、ハンソン親子を待つコトにした。
「今夜アナタが招待されたのは、モーリス・カールトン監督の生誕80周年記念パーティーでしたよね?」
そのモーリス・カールトン監督が制作した映画"ブレークダウン"の派手なコスプレ、通称ブレイカースタイルのせいで、ホテルの宿泊客から無駄に注目されている蘇芳は、人目を気にして隣りに坐るアーサーに話しかける時も…
アーサーの顔ではなく、恐らくは自分たちの会話に聞き耳を立てているであろう、周りにいる宿泊客たちに注視した。
「ゼフィロスの夜会とは違い、君にとって顔も知らない人間ばかりだから、気を付けるのだよ?」
「確かに、いつもダルトン卿やベンソン支配人に、見守られているから安心してたけど…」
「頭のオカシイ人間は、君が思っているよりも身近にたくさんいるものだ… 何度も言うが、知らない人から渡された飲み物は絶対に口に入れないように! ソレと自分の飲み物は、飲み終わるまで手放さないコト!」
「はい… 肝に銘じます!」
この時ばかりは、厳しい表情のアーサーを見つめて、右手を自分の胸に置き、誓う蘇芳。
<ステファノのサロンで、ナンパされそうになり、その時アーサーが割って入り僕を止めなければ、ドラッグ入りのカクテルを飲み、僕はきっとレイプされていただろう>
1度失敗している蘇芳は、アーサーは過保護過ぎると笑ってはいられないのだ。
「それと蘇芳、ハンソン姉妹のエスコートだが… 君は妹のサリー嬢を頼む、私は姉の方をするから」
「え! でも、アーサー! 彼女はきっと、スゴク気を悪くしますよ?」
<ギルボーンハウスのディナーパーティーで、ハンソン姉妹は2人とも、アーサーをウットリと見つめていた印象が、あるんだけど? 可哀そうにサリー嬢、せっかくアーサーにエスコートされるチャンスだったのに、僕に当たるなんて>
「いいや、今夜の君なら彼女も大喜びさ、何なら賭けても良い!」
「えええええ~?! こんな派手な、コスプレ男ですよ? 今夜の僕は?」
なぜか自信満々で言い切るアーサーを、渋い顔をした蘇芳本人が懐疑的に反論した。
蘇芳と対面した、サリー嬢の瞳に星が輝いていた。
「私…っ! "B.D" の大ファンなんです!! 素敵~っ!!」
サリー嬢大喜び。
「そうですーかー? ソレは幸いですー???」
ちょっと動揺して、棒読み風に答える蘇芳。
「あ… あの、あの! 初めまして!! サラ・ハンソンですっ! ど… どうかサリーと呼んでください?」
サッと握手の手を出すサリー嬢。
「……!!」
<…何だって?! この人、僕が誰だか分からないのか?>
ギルボーンハウスのディナーパーティーで、蘇芳はサリー嬢とは既に2度も会っている。
困惑する蘇芳は助けを求めて、アーサーを見上げると、2人のやり取りを、何やら思案顔で見ていたが…
「Miss サラ、紹介が遅れ失礼しました、彼は… マコト・・ワダ、俳優です」
「えええ?! 僕が?!」
「まぁ!! そうだと思ったわ、だって本当に素敵な方ですもの? Mr.ワダ?」
「どうかマコトと呼んでやってください、今夜はニック・カールトン監督に紹介するために連れて来たのです」
"マコト"とは同じ寮の友人、戸川さんの名前で、"ワダ"は蘇芳の大親友、直輝の姓だ。
ケロリとサリー嬢に嘘をついた大男はニコリッ… と微笑み、"話を会わせろよ?" とは口に出さずに、蘇芳の肩をガシッ! と掴む。
「・・・・・・」
蘇芳はアングリと口を開けて絶句した。
「マコトは照れ屋だから、若い女性の前では緊張してしまうのです、どうか許してやってください」
「うふふ… とても可愛い方なのね!」
サリー嬢は嬉しそうに蘇芳… マコトを見つめる。
「いつまでソコにいる気だ?」
オリバーが恋人、サリー嬢の母をエスコートしながら待ってた。
その隣りで、姉のレイチェル嬢も期待の眼差しをアーサーに向けながら、ソワソワと待っている。
オリバーと目が合うと、軽く頷かれ、慌てて頭を下げる蘇芳。
いつもの蘇芳に対するトゲトゲしさが無い。
つまりオリバーもマコトが誰だか分からないのだ。
「コレでパーティーに添える花が出来た」
「花? アーサー? 何ですかそれ?」
「君がゴシップキングの新たな恋人だと、騒がれるようなコトになっても、偽名なら都合が良いだろう?」
アーサーは満足げに蘇芳にだけ聞こえるように囁く。
「うううう… マジかぁ… 気持ちが追いつきません‥」
「ハハハハハッ」
楽し気に笑うアーサー
更に蘇芳は嫌な予感がする。
<スゴク不安!!>
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