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第4章 映画祭編
77話 髪を切れなかった理由
しおりを挟む12月下旬、ナイツベリー映画祭の開催式には多忙のアーサーではなく、アーサーの伯父オリバーがG.I社の代表として出席することとなった。
開催式の翌日、開催地ナイツベリーにある、G.I社系列のガーランドホテルで蘇芳とアーサーは落ち合う約束をしていた。
蘇芳はホテルのロビーでアーサーを見つけたが、数人の観光客に囲まれてしまい、行く手を阻まれた。
アーサー自身は、ボディーガードを2人連れ、蘇芳の脇を足早に通り過ぎてゆく。
「アーサー!!」
アーサーは声の方へ振り向くと、面白いほど茫然として、口をパカリッ… と開けながら蘇芳を凝視する。
「…蘇芳か…?!」
腰までの黒髪エクステをポニーテールにして、全身黒系の服でコーディネート。
目にはブルーのカラーコンタクトを入れ、ついでにアイラインくっきりのメイクまでしている。
「アーサー!」
観光客を振り切りアーサーに走り寄ると、蘇芳はブルーの瞳で見上げた。
「モーリス・カールトン監督の"ブレイク・ダウン" だな?」
マジマジと見つめ、アーサーが感慨深げに囁く。
「はい! コレって… "ブレイカー・スタイル" と言うらしいですね… ステファノが絶対コレをやるって、言い張るから、僕は逆らえなくて… 想像以上に派手だから目立ち過ぎるし、恥ずかしくって! こういう格好が映画がヒットした時に流行ったらしいですね?」
現在の蘇芳は、有名な大ヒット映画の、コスプレをしているのだ。
「ああ、初回上映から10年以上過ぎた今でも熱狂的なファンが多い映画だ… それにしてもステファノは本当に良い仕事をする!」
アーサーは蘇芳のコスプレが気に入ったらしく、長い黒髪を人房手に取り、ニヤリと笑う。
「他にも僕と同じようなコスプレした人見ましたよ… 正直、僕一人じゃなくてホッとしました」
ジロジロとガン見されたり、写真を撮られたりし続けて、普段は地味な生活を送る蘇芳は、心が折れかけていた。
「断言しよう! 君が誰よりも一番似合っている!」
蘇芳は頬を染めた。
だが、間が悪いコトに蘇芳の腹がグギュルル~ と鳴りだし更に頬の赤みが増す。
空手を毎朝したり、体力づくりの為に暇さえあれば走ったりしてるから、たくさん食べているのに、蘇芳はいつも空腹状態なのだ。
「う゛う゛う゛~ お腹減った!」
おかげで身長も地味に伸びている。
「クックックッ…」
容姿を無視した蘇芳の色気のない発言に、アーサーは楽し気に笑う。
「荷物を預けてくるから、このまま食事に行こう」
「えっ本当に? 嬉しい!」
蘇芳は人前なのを忘れてアーサーに抱きつくが…
アーサーの広い肩の向こう側で観光客たちが、チラチラと自分たちの様子をうかがう姿が見え、蘇芳は慌てて離れる。
10日ぶりに、お互いの顔を見てテンションが上がる2人。
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