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第2章 コテージ編
48話 濃霧 後編
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白い濃霧で迷い、蘇芳はパニックになった。
「何も見えない! …怖っ! 何も見えない! コテージに帰らないと!!」
一歩、踏み出すと、霧で濡れた足元がズルリと滑り、ばたばたと腕を振りながら後ろ向きで背中から湖に落ちる。
「ウソ!! ぐふ… っ… 誰か… 助…けてっ… ア…サ…うぐっ…」
大量の冷たい水が口から入り、咳き込みながら桟橋に手を伸ばすが、届くどころか遠ざかっていく。
バタバタともがけばもがくほど、泳げない蘇芳の顔は湖に沈む。
「ゴホッ…あぐっ… ふっ…助…けっぐっ…」
<…アーサーと話したいのに… 毎日声を聞くだけで、嬉しいとか… 姿を見るといつも見惚れてしまうとか… 抱き締められると胸がいっぱいで涙が出そうになるとか…!>
必死に水面に手を伸ばすが、蘇芳は冷たい暗闇の底へ落ちて行く。
蘇芳はずぶ濡れでゼフィロスにいた。
離れた場所で赤毛の青年を抱き微笑むアーサーがいる。
<…一言文句を言ってやりたい!>
「ア‥ア…ッ…アー…ッ」
声が出ない。
身体が重くて動かない… 手も足も… 動かない。
コレが自分の夢だと蘇芳には何となくわかっていたが、自由にならない自分の身体にイライラした。
『彼のような男に誠実さを求めてはダメだよ』
クレベールが蘇芳に抱き着いて身体を撫でまわし、下着にまで手を入れる。
振り払いたくても身体が動かず、うめき声しか出ない。
「うううっぐううう」
<…触るな! 触るな! 触るな! 止めろ!!>
『赤毛の美青年とお楽しみ中で、声を掛けられなかった』
ドワーフ男のシャイデマンが下品に笑う。
「うううっくう…っ」
<…嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! アーサー! アーサー!>
『蘇芳はノーマルなのに何で男と付き合ってるの? 遊ばれてるんじゃないのか?』
直輝に言われ必死で、反論しようとするが…
「ううっ…ぐうっ…っふ」
<…違う直輝! 違うんだ!!>
トーマスが椅子に座り紅茶を飲んでいた。
『恋愛ゲームに夢中なのは良い… だが本気で愛してはイケナイよ、若い君には難しいかも知れないが』
<…無理ですトーマスさん。蘇芳の瞳に涙があふれる>
『 蘇芳はあの人のコト愛してるの?』
直輝にジッと見つめられる。
<…愛してる!!>
蘇芳は心で即答した。
『愛してはイケナイよ』
トーマスに諭される。
いつの間にかクレベールとシャイデマンが消えた。
<…どうしてダメなの?>
『アーサーは世慣れている、手本にするには丁度いい男だが…』
トーマスがまた諭す。
<アーサーは遊びだと? 本気に見えるのに? …本気の遊び?>
自分の手を見ると蘇芳は日記を持っていた。
<僕もアダムのように、甘い毒で狂ってしまうのだろうか?>
ふと目を開くと、白い天井が見える。
ぼんやり視線を動かすとアーサーが窓際に立っていた。
<アナタの側にいれば、僕は狂わない>
アーサーの髪が、蜂蜜色、月光のような淡い金色、アッサムの茶葉で淹れた深い紅茶色、陽光に照らされ無数の金色が複雑に重なり合いキラキラ光っている。
<美しい人… ダメでも愛したい 愛したい!!>
整髪せず、洗ってそのまま軽いクセ毛が首筋でクルリと跳ねていて、いつもよりもアーサーが若く見える。
見惚れる蘇芳の瞳から一粒の涙がこぼれ、ホゥーッとため息をつく。
アーサーが振り向き蘇芳の顔をのぞき込み、心配そうに頬を撫でる。
「蘇芳…! 気分は?」
答えようとするが、ノドが痛み蘇芳は身体を丸め咳き込む。
「無理に話さなくて良い」
蘇芳の背中を撫でながら、アーサーは咳が治まるのを待つ。
「昨夜… 君は湖に落ちて溺れたコトを覚えているか?」
<落ちたのは覚えている>
ゆっくり蘇芳はうなずく。
蘇芳が身体を起そうとすると、アーサーが背中にクッションを当ててくれた。
「霧が…」
「そうだ… 今の時期、この辺りは濃霧が出るんだ」
ぼんやりとした月明りの下で濃霧で方向感覚を失い、パニックになり湖に落ちた瞬間を思い出す。
湖に落ちた瞬間の恐怖がよみがえり、ギュッ… と瞳を閉じ衝撃が去るのを待つ。
「呼吸が止まり冷え切った君を見つけた時は… 死ぬほど怖かった! コレでは私の身が持たない!!」
<少し前にも、蘇芳は暴漢に襲われナイフを突きつけられたばかりだ… 今回は自業自得だ>
アーサーの大きな手を取り、蘇芳は自分の頬に当てる。
「ごめ…んなさ…い」
かすれ声で謝り、心の中で告白した。
<アナタが好きですアーサー… 僕はアナタが好きです… 僕の心を止められなかった>
ブルーグレーの瞳がジッ… と蘇芳を見つめキスを唇に落とす。
蘇芳は、アーサーから目を離せなかった。
死に直面して自分の気持ちを素直に認めるコトが出来たのだ。
また蘇芳の目から、涙があふれた。
「何も見えない! …怖っ! 何も見えない! コテージに帰らないと!!」
一歩、踏み出すと、霧で濡れた足元がズルリと滑り、ばたばたと腕を振りながら後ろ向きで背中から湖に落ちる。
「ウソ!! ぐふ… っ… 誰か… 助…けてっ… ア…サ…うぐっ…」
大量の冷たい水が口から入り、咳き込みながら桟橋に手を伸ばすが、届くどころか遠ざかっていく。
バタバタともがけばもがくほど、泳げない蘇芳の顔は湖に沈む。
「ゴホッ…あぐっ… ふっ…助…けっぐっ…」
<…アーサーと話したいのに… 毎日声を聞くだけで、嬉しいとか… 姿を見るといつも見惚れてしまうとか… 抱き締められると胸がいっぱいで涙が出そうになるとか…!>
必死に水面に手を伸ばすが、蘇芳は冷たい暗闇の底へ落ちて行く。
蘇芳はずぶ濡れでゼフィロスにいた。
離れた場所で赤毛の青年を抱き微笑むアーサーがいる。
<…一言文句を言ってやりたい!>
「ア‥ア…ッ…アー…ッ」
声が出ない。
身体が重くて動かない… 手も足も… 動かない。
コレが自分の夢だと蘇芳には何となくわかっていたが、自由にならない自分の身体にイライラした。
『彼のような男に誠実さを求めてはダメだよ』
クレベールが蘇芳に抱き着いて身体を撫でまわし、下着にまで手を入れる。
振り払いたくても身体が動かず、うめき声しか出ない。
「うううっぐううう」
<…触るな! 触るな! 触るな! 止めろ!!>
『赤毛の美青年とお楽しみ中で、声を掛けられなかった』
ドワーフ男のシャイデマンが下品に笑う。
「うううっくう…っ」
<…嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! アーサー! アーサー!>
『蘇芳はノーマルなのに何で男と付き合ってるの? 遊ばれてるんじゃないのか?』
直輝に言われ必死で、反論しようとするが…
「ううっ…ぐうっ…っふ」
<…違う直輝! 違うんだ!!>
トーマスが椅子に座り紅茶を飲んでいた。
『恋愛ゲームに夢中なのは良い… だが本気で愛してはイケナイよ、若い君には難しいかも知れないが』
<…無理ですトーマスさん。蘇芳の瞳に涙があふれる>
『 蘇芳はあの人のコト愛してるの?』
直輝にジッと見つめられる。
<…愛してる!!>
蘇芳は心で即答した。
『愛してはイケナイよ』
トーマスに諭される。
いつの間にかクレベールとシャイデマンが消えた。
<…どうしてダメなの?>
『アーサーは世慣れている、手本にするには丁度いい男だが…』
トーマスがまた諭す。
<アーサーは遊びだと? 本気に見えるのに? …本気の遊び?>
自分の手を見ると蘇芳は日記を持っていた。
<僕もアダムのように、甘い毒で狂ってしまうのだろうか?>
ふと目を開くと、白い天井が見える。
ぼんやり視線を動かすとアーサーが窓際に立っていた。
<アナタの側にいれば、僕は狂わない>
アーサーの髪が、蜂蜜色、月光のような淡い金色、アッサムの茶葉で淹れた深い紅茶色、陽光に照らされ無数の金色が複雑に重なり合いキラキラ光っている。
<美しい人… ダメでも愛したい 愛したい!!>
整髪せず、洗ってそのまま軽いクセ毛が首筋でクルリと跳ねていて、いつもよりもアーサーが若く見える。
見惚れる蘇芳の瞳から一粒の涙がこぼれ、ホゥーッとため息をつく。
アーサーが振り向き蘇芳の顔をのぞき込み、心配そうに頬を撫でる。
「蘇芳…! 気分は?」
答えようとするが、ノドが痛み蘇芳は身体を丸め咳き込む。
「無理に話さなくて良い」
蘇芳の背中を撫でながら、アーサーは咳が治まるのを待つ。
「昨夜… 君は湖に落ちて溺れたコトを覚えているか?」
<落ちたのは覚えている>
ゆっくり蘇芳はうなずく。
蘇芳が身体を起そうとすると、アーサーが背中にクッションを当ててくれた。
「霧が…」
「そうだ… 今の時期、この辺りは濃霧が出るんだ」
ぼんやりとした月明りの下で濃霧で方向感覚を失い、パニックになり湖に落ちた瞬間を思い出す。
湖に落ちた瞬間の恐怖がよみがえり、ギュッ… と瞳を閉じ衝撃が去るのを待つ。
「呼吸が止まり冷え切った君を見つけた時は… 死ぬほど怖かった! コレでは私の身が持たない!!」
<少し前にも、蘇芳は暴漢に襲われナイフを突きつけられたばかりだ… 今回は自業自得だ>
アーサーの大きな手を取り、蘇芳は自分の頬に当てる。
「ごめ…んなさ…い」
かすれ声で謝り、心の中で告白した。
<アナタが好きですアーサー… 僕はアナタが好きです… 僕の心を止められなかった>
ブルーグレーの瞳がジッ… と蘇芳を見つめキスを唇に落とす。
蘇芳は、アーサーから目を離せなかった。
死に直面して自分の気持ちを素直に認めるコトが出来たのだ。
また蘇芳の目から、涙があふれた。
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