英国紳士の溺愛

金剛@キット

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第2章 コテージ編

45話 日記

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  あちこちシミだらけのページをめくってゆくと、いかにも適当に書きなぐった英文字が並んでいた。


"日記を母さんに貰ったけど何を書けばいいか分からない"

「持ち主は子供かな?」

 微笑ましくて、蘇芳はクスクス笑った。

"父さんは今度こそ釣りを教えると約束したけど、休日も仕事で家に帰ってこない。今度っていつ?"

「男の子? んん? かなぁ?」

 読み進めてゆくと、書いた日付が飛び飛びで、1年かけても2ページしか埋まっていない。

「小さな男の子だしね…」


"アーサーは汚くて臭い、同じ空気を吸うのが嫌だ! あの獣が弟だなんて最悪だ!"

「弟? アーサーのお兄さん?!  …お兄さんがいるなんて、聞いたことない」


 パラリとめくると、4年も飛んでいた。

"Tにキスされて吐きそうになった!  これで歴史の成績は安心だ"

「どういう…意味…?」

 蘇芳の眉間にしわが寄る。


"おしゃぶりNが恋人気取りで鬱陶うっとうしい!! 自分にしか理解できない話を僕にしてキモイ!!  あんなバカ殺してやりたい!"

「んん…?」

"最愛の人が会いに来た! 想像より素敵すぎて興奮した! 自慰を3回しても足りない!!" 

"世界で一番、最愛の人を愛しているのは僕なのに、結婚するなんて許せない!! "

 そこで一冊目が終わり、次の日記を開く。


"最愛の人の婚約が破談になった!神様万歳! "

「オイオイ!お兄さんたら…コレはもう日記というより、ストレス解消に暴言を書きまくった感じだ」

 呆れて蘇芳は日記に突っ込みを入れた。


"最愛の人のフレグランスを盗むのに成功した!この香りだけで何度もイケル!"
 
"汚いハイエナに最愛の人への愛を知られた! 奴に抱かれるのは嫌だが、彼への愛をバラされるより良い。殺してやる汚いゲス野郎!! "


「"彼への愛をバラされるより良い" この人は…」

 蘇芳は拳で口を覆う。

<誰かに脅されて、肉体関係を強要されていたのだ… それもゲイだった>
 


「こんな寒いところにいたら、風邪をひくぞ」

「わっ!?」

 アーサーに声を掛けられ、驚く蘇芳。

「ア、アーサーお帰りなさい」

 窓の外を見ると、空は曇り日は暮れかけていた。


「一人にして悪かった、私の馬に会いに行ってたんだ」

「馬を持っているのですか?」

「父のを受け継いだのに、なかなか会いに来られなかったから」

「そうですか‥喜んでましたか?」

「ああ、だいぶ年を取ってしまったが… 機嫌よく乗せてくれた。」

 蘇芳は1人にされ、スネてた自分が恥ずかしくなった。

 馬の方が蘇芳よりもずっと長い間、アーサーを待っていたに違いないからだ。


「君はずっと読書をしていたのか?」

 アーサーの視線が蘇芳の持ってる日記に移る。


「コ‥ コレは…日記です、アナタにはお兄さんがいるのですか? この日記の持ち主が…」

 日記のイニシャルを見せると、アーサーの表情が消え、怯える蘇芳。

「勝手に読んですみません!」

「アダム・リチャード・ギルボーン、数年前に事故死した兄だ」

 アーサーは美青年のパネルが飾ってある壁を指差す。


「あの天使みたいな美青年が、アナタのお兄さん?!」

「中身は最悪だ! 気取り屋なうえ、狡猾こうかつな性悪だった」

「やっぱりお兄さんが、嫌いでしたか…」

「やっぱり?」

「…すみません日記を読んでて何となく」

「このコテージはアダムの物だった。写真家が兄の友人にいたせいでこの有様だ… 面倒でそのままだったが、処分すれば良かった」

「この日記ココに隠してありましたよ? 知ってましたか?」

 蘇芳はベッドを降り、りぬいた飾り板部分を見せた。


「イヤ、この部屋に入ったコトも無い」

 アーサーに腰を抱き寄せられるが、蘇芳は分厚い胸に手を置き身体が密着するのを防ぐ。

 拒まれムッと不満そうにするが、アーサーは額にキスをして蘇芳を解放する。


「いくつ違いですか?」

「7歳だ」

「アナタとあまり似てませんね」

「ああ…夕食の用意をしてくる、今夜は早めに取ろう」

「はい」

 アーサーは不機嫌そうに部屋を出て行く。


「また流されたら、話が出来なくなる」

 

 絶対に、ゼフィロスで聞いた、赤い髪の愛人疑惑についてハッキリさせないと。


 



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