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第1章 誓約編
23話 吐き気
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ソコは繁華街の外れにあり、古い倉庫を改装したパブだった。
ペンキは剥げ落ち、窓ガラスも薄汚れ、酷くみすぼらしい印象の店だ。
カジュアルな服装に着替え、アーサーはハサウェイの友人(調査会社の探偵)と、店内の暗がりからショーを見ていた。
客は他に8人ほどいる。
テーブル席を壁際に寄せ、店の真ん中に出来た空きスペースを使い、全裸で、手足を革ベルトで拘束され、口を塞ぎ、苦痛に歪む若い日本人が2人の男に凌辱されていた。
胸が悪くなるような光景だ。
「あなたの捜し人ですか?」
「ええ… 間違い無く彼だ!」
「役者の1人と知り合いです、チップを多めに渡せば、何か聞き出せるでしょう」
翌朝、心配でほとんど眠れなかった蘇芳を宥めながら朝食を取らせるトーマス。
「アーサーはまだ帰らないのですか?」
皿に盛ったスクランブルエッグを、蘇芳は食べずにカチカチとホークで突きながら、トーマスに尋ねた。
「自分の部屋に帰ったようだ」
紅茶を飲みながらトーマスは、イライラと卵をホークでもてあそぶ蘇芳を、盗み見るようにチラリと視線を向けた。
「…自分の部屋? 会社近くのですか?」
大きなため息をつくと、ホークを皿に置いて、蘇芳は視線を上げた。
「そんなに気になるかね?」
何となく含みのあるトーマスの言葉に蘇芳は赤くなる。
廊下から力強い足音が聞こえ、黒髪姿のアーサーが表れた。
服装もミリタリー感漂うブラウンのカーゴパンツと、よく使い込んだオリーブ・グリーンのコットンジャケット、ワイルドな男の定番服だ。
そして足元はブーツ。
「なんて格好だ!」
トーマスは呆れて首を横に振るが、蘇芳はウットリといつもとは違う、野性味が溢れるアーサーの男臭さに見惚れていた。
「おはよう、よく眠れたか?」
アーサーは父親の視線などお構いなしで、蘇芳の唇にサッとキスする。
「はい」
流石に唇にキスをされ、蘇芳は頬を赤くし、アーサーに見惚れるのを止めて顔を伏せた。
「直輝を見つけた」
蘇芳はハッと息を呑み、顔を上げてアーサーの袖を掴む。
「無事ですか?」
「今のところはな… だが急がないと、彼は少し面倒な場所にいるから」
「直輝が… 直輝が…っ!」
安堵した途端、眼から滲み出す涙を、蘇芳は指先で拭う。
「もう少しの辛抱だよ蘇芳」
蘇芳の背中を、隣の席からトーマスはゆっくりと撫でた。
「はい…っ、寮のみんなにも連絡しないと」
「お待たせしました」
いつもはスーツ姿のタイラーが、ラフな服装で朝食室に入ってきた。
「今はあまり時間が無いから、帰ったら話そう… それとタイラーを借りていく、お父さん蘇芳を頼みます」
「待って! 僕も連れて行って下さい!」
慌てて蘇芳は立ち上がった。
「危ないからダメだ!」
アーサーは即答した。
「そんな… でも警察と一緒なら、安全でしょう?」
食い下がる蘇芳に、アーサーは少し言いよどむが、自分の考えを説明した。
「…性犯罪の被害者は、保護された後も周囲の反応で深く傷つくコトが多いと聞く、知る人間を最小限にしたい」
「っ…!」
性犯罪の被害者と聞き、直輝の過酷な現在の状況がスグに理解出来、蘇芳の身体は恐怖で震えた。
「彼だけ先に保護して警察に通報するつもりだ、直輝が望めば被害者として出られるようにする」
感情的にはならず淡々と冷静に話すアーサーとは違い、直輝を思い涙を堪えて、蘇芳は顔を歪めた。
「分かりました… 引き留めてすみません! どうか2人とも気を付けて!」
涙を我慢する蘇芳を、ギュッと抱き締めてから、アーサーはタイラーと足早に朝食室を出てゆく。
ペンキは剥げ落ち、窓ガラスも薄汚れ、酷くみすぼらしい印象の店だ。
カジュアルな服装に着替え、アーサーはハサウェイの友人(調査会社の探偵)と、店内の暗がりからショーを見ていた。
客は他に8人ほどいる。
テーブル席を壁際に寄せ、店の真ん中に出来た空きスペースを使い、全裸で、手足を革ベルトで拘束され、口を塞ぎ、苦痛に歪む若い日本人が2人の男に凌辱されていた。
胸が悪くなるような光景だ。
「あなたの捜し人ですか?」
「ええ… 間違い無く彼だ!」
「役者の1人と知り合いです、チップを多めに渡せば、何か聞き出せるでしょう」
翌朝、心配でほとんど眠れなかった蘇芳を宥めながら朝食を取らせるトーマス。
「アーサーはまだ帰らないのですか?」
皿に盛ったスクランブルエッグを、蘇芳は食べずにカチカチとホークで突きながら、トーマスに尋ねた。
「自分の部屋に帰ったようだ」
紅茶を飲みながらトーマスは、イライラと卵をホークでもてあそぶ蘇芳を、盗み見るようにチラリと視線を向けた。
「…自分の部屋? 会社近くのですか?」
大きなため息をつくと、ホークを皿に置いて、蘇芳は視線を上げた。
「そんなに気になるかね?」
何となく含みのあるトーマスの言葉に蘇芳は赤くなる。
廊下から力強い足音が聞こえ、黒髪姿のアーサーが表れた。
服装もミリタリー感漂うブラウンのカーゴパンツと、よく使い込んだオリーブ・グリーンのコットンジャケット、ワイルドな男の定番服だ。
そして足元はブーツ。
「なんて格好だ!」
トーマスは呆れて首を横に振るが、蘇芳はウットリといつもとは違う、野性味が溢れるアーサーの男臭さに見惚れていた。
「おはよう、よく眠れたか?」
アーサーは父親の視線などお構いなしで、蘇芳の唇にサッとキスする。
「はい」
流石に唇にキスをされ、蘇芳は頬を赤くし、アーサーに見惚れるのを止めて顔を伏せた。
「直輝を見つけた」
蘇芳はハッと息を呑み、顔を上げてアーサーの袖を掴む。
「無事ですか?」
「今のところはな… だが急がないと、彼は少し面倒な場所にいるから」
「直輝が… 直輝が…っ!」
安堵した途端、眼から滲み出す涙を、蘇芳は指先で拭う。
「もう少しの辛抱だよ蘇芳」
蘇芳の背中を、隣の席からトーマスはゆっくりと撫でた。
「はい…っ、寮のみんなにも連絡しないと」
「お待たせしました」
いつもはスーツ姿のタイラーが、ラフな服装で朝食室に入ってきた。
「今はあまり時間が無いから、帰ったら話そう… それとタイラーを借りていく、お父さん蘇芳を頼みます」
「待って! 僕も連れて行って下さい!」
慌てて蘇芳は立ち上がった。
「危ないからダメだ!」
アーサーは即答した。
「そんな… でも警察と一緒なら、安全でしょう?」
食い下がる蘇芳に、アーサーは少し言いよどむが、自分の考えを説明した。
「…性犯罪の被害者は、保護された後も周囲の反応で深く傷つくコトが多いと聞く、知る人間を最小限にしたい」
「っ…!」
性犯罪の被害者と聞き、直輝の過酷な現在の状況がスグに理解出来、蘇芳の身体は恐怖で震えた。
「彼だけ先に保護して警察に通報するつもりだ、直輝が望めば被害者として出られるようにする」
感情的にはならず淡々と冷静に話すアーサーとは違い、直輝を思い涙を堪えて、蘇芳は顔を歪めた。
「分かりました… 引き留めてすみません! どうか2人とも気を付けて!」
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