英国紳士の溺愛

金剛@キット

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第1章 誓約編

21話 不安と希望

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 ギルボーン・ハウスの図書室で、蘇芳はアーサに貰ったPCを使い、一心不乱に課題のレポートを作成していた。


「ここで何をしている!」

「お帰りなさい! 直輝のコト、何か分かりましたか?」
 
 痣がまだ色濃く残る顔で、無理に笑う蘇芳の背中にアーサーはイライラと手を添える。


「蘇芳… まだ安静にしていろと、医者からも言われただろう? 直輝の方はまだ進展は無い」


「私も説得したがレポートを書くと聞かないのだ」

 一緒に 読書をしていたトーマスが困ったように口を挟む。


「内容を忘れないうちに、書き直しておきたくて…」

「正気か? 今朝だって歩くのがやっとだったのに」

 心配する気持ちから、アーサーは蘇芳を睨んだ。


「勉強は歩かないから平気です」

「だが、顔色が悪い」
 
 屁理屈をごねる蘇芳にアーサーは怖い顔をする。


「見かけは酷いけど朝より調子は良いし、もう少しだけ…」

「蘇芳!」

「何かしてないと… 不安なんです!」

 しょんぼりする蘇芳にそれ以上、アーサーは何も言えなくなる。

 2人のやり取りを面白そうに見ていたが、トーマスは息子にジロリと睨まれ、苦笑を浮かべて図書室から出ていく。


「蘇芳、今から夜会に行く」

 イライラを吐き出すように、アーサーは大きなため息をついた。


「え?」
 
「安静にできないのなら私に付き合え」

「行きます! もうジッとしてられない」

 暗く沈んでいた蘇芳の顔にパッと赤みが差し、アーサーは渋い顔をする。


「その前にこの書類にサインを」

 手に持っていた書類をアーサーは蘇芳に手渡した。


「何ですか?」

 書類を手に取り、蘇芳は端から端まで読み始める。



「同伴者資格の申請書… ですか?」

 アーサーは上着の胸ポケットから万年筆を出して、キャップを外し蘇芳に渡した。


「これを出しておけば、"契り" を結び、私が正会員になった時に、君は私の同伴者として準会員の資格が得られる」

「へえ… 推薦者がダルトン卿?」

「私はまだ準会員だから推薦者になれないんだ」

 話しながらアーサーは、蘇芳がサインを入れる場所を、指でトントンと叩いて差し示した。


「親切な方ですね」

 アーサーに指示された場所に、蘇芳は順番にサインを入れて行く。


「ダルトン卿は父の学友だから」

 蘇芳がサインを入れた書類をザッ… と見直し、アーサーは元通り折りたたんで上着の内ポケットに入れる。


「ああ、そういう繋がりが!」
 
 蘇芳はニコッ… と笑いアーサーを見あげ、万年室に蓋をして返す。


「そうと決まれば準備をしないとな…」

 もう1度眉尻を下げ、アーサーは困った顔でため息をつき、蘇芳の細い肩を労わるように撫でた。


「準備ですか?」

 痣だらけの顔で蘇芳は不思議そうに、アーサーを見つけた。



 ゼフィロスへ行く前に派手な痣を消すため、ステファノのサロンへ寄る。


「まあ王子様! 何てこと…」

  今夜のステファノはエメラルドグリーンのウィッグに、小さなミラーボールを耳から下げてキラキラしていた。


「鎮痛剤を飲んでて、あまり痛くないから、大丈夫… やっちゃって下さい!」

 逆に薬が切れると痛くて動けなくなるのだ。

 髪を綺麗にセットされ、蘇芳の顔に残る痣をステファノはファンデーションで、あっという間に目立たなくしてくれた。




 ゼフィロスに着くと二人は会員たちに次々と話しかけられ、到着15分で蘇芳はへとへとに疲れてしまった。
 アーサーが蘇芳の腰を抱き支えていたが、身体に力が入らず崩れ落ちそうになり


「話の途中ですが失礼!」

 蘇芳の顔色を見て、アーサーは有無を言わさず抱き上げ、壁際にある椅子へと連れて行った。

 アーサーの首に手を回し蘇芳はヒソヒソ耳元で謝る。


「ごめんなさい!」

「いや、このまま見せつけてやろう」

「ううっ」 

 頬にキスされ真っ赤になる蘇芳


「ああギルボーンが羨ましい」
「私も日本人の恋人が欲しいよ」
「彼の友人を早く見つけて私が1番に口説いてみせる」

 会員たちの羨ましそうな声が聞こえ


「わあ…」

「直輝捜索隊に3人追加だ! 3人それぞれが自分のツテを最大限に使って捜してくれるだろう」

「なんか希望が見えてきましたね」

「こうやって、イチャつくのもなかなか良い作戦だろう?」

 クスクス笑う蘇芳の額にアーサーはキスを落とした。


「辛いだろうが、そうやって可愛く笑っていなさい… それと私にもキスを」

「…はい」

 蘇芳は言われるがまま、アーサーの耳の下にキスをし、薄っすらと頬を染める。


「ああ羨ましい!」

 会員の誰かがまた、そう言うのが聞こえ蘇芳はニヤニヤする。
 

 椅子に座っていても絶えず誰かが側に来て、蘇芳は微笑みを顔に貼付け、手の甲にキスされても黙って受け入れた。


「私はスコットランドで彼を見つけたかも知れない」

「Mr.ハサウェイ?」

 小太りで愛想の良い、初老の紳士が自慢げに言う


「面白いショーに可愛い日本人が出演していると友人に誘われてね」

「ショー? 直輝ですか?」

 ハサウェイは蘇芳に注目されて嬉しそうに微笑む。


「それが私は情報ダケ受け取って、ショーは見てないからね何も言えないよ」



 Mr.ハサウェイはアーサーに小さく頷く。





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