22 / 106
第1章 誓約編
21話 不安と希望
しおりを挟むギルボーン・ハウスの図書室で、蘇芳はアーサに貰ったPCを使い、一心不乱に課題のレポートを作成していた。
「ここで何をしている!」
「お帰りなさい! 直輝のコト、何か分かりましたか?」
痣がまだ色濃く残る顔で、無理に笑う蘇芳の背中にアーサーはイライラと手を添える。
「蘇芳… まだ安静にしていろと、医者からも言われただろう? 直輝の方はまだ進展は無い」
「私も説得したがレポートを書くと聞かないのだ」
一緒に 読書をしていたトーマスが困ったように口を挟む。
「内容を忘れないうちに、書き直しておきたくて…」
「正気か? 今朝だって歩くのがやっとだったのに」
心配する気持ちから、アーサーは蘇芳を睨んだ。
「勉強は歩かないから平気です」
「だが、顔色が悪い」
屁理屈をごねる蘇芳にアーサーは怖い顔をする。
「見かけは酷いけど朝より調子は良いし、もう少しだけ…」
「蘇芳!」
「何かしてないと… 不安なんです!」
しょんぼりする蘇芳にそれ以上、アーサーは何も言えなくなる。
2人のやり取りを面白そうに見ていたが、トーマスは息子にジロリと睨まれ、苦笑を浮かべて図書室から出ていく。
「蘇芳、今から夜会に行く」
イライラを吐き出すように、アーサーは大きなため息をついた。
「え?」
「安静にできないのなら私に付き合え」
「行きます! もうジッとしてられない」
暗く沈んでいた蘇芳の顔にパッと赤みが差し、アーサーは渋い顔をする。
「その前にこの書類にサインを」
手に持っていた書類をアーサーは蘇芳に手渡した。
「何ですか?」
書類を手に取り、蘇芳は端から端まで読み始める。
「同伴者資格の申請書… ですか?」
アーサーは上着の胸ポケットから万年筆を出して、キャップを外し蘇芳に渡した。
「これを出しておけば、"契り" を結び、私が正会員になった時に、君は私の同伴者として準会員の資格が得られる」
「へえ… 推薦者がダルトン卿?」
「私はまだ準会員だから推薦者になれないんだ」
話しながらアーサーは、蘇芳がサインを入れる場所を、指でトントンと叩いて差し示した。
「親切な方ですね」
アーサーに指示された場所に、蘇芳は順番にサインを入れて行く。
「ダルトン卿は父の学友だから」
蘇芳がサインを入れた書類をザッ… と見直し、アーサーは元通り折りたたんで上着の内ポケットに入れる。
「ああ、そういう繋がりが!」
蘇芳はニコッ… と笑いアーサーを見あげ、万年室に蓋をして返す。
「そうと決まれば準備をしないとな…」
もう1度眉尻を下げ、アーサーは困った顔でため息をつき、蘇芳の細い肩を労わるように撫でた。
「準備ですか?」
痣だらけの顔で蘇芳は不思議そうに、アーサーを見つけた。
ゼフィロスへ行く前に派手な痣を消すため、ステファノのサロンへ寄る。
「まあ王子様! 何てこと…」
今夜のステファノはエメラルドグリーンのウィッグに、小さなミラーボールを耳から下げてキラキラしていた。
「鎮痛剤を飲んでて、あまり痛くないから、大丈夫… やっちゃって下さい!」
逆に薬が切れると痛くて動けなくなるのだ。
髪を綺麗にセットされ、蘇芳の顔に残る痣をステファノはファンデーションで、あっという間に目立たなくしてくれた。
ゼフィロスに着くと二人は会員たちに次々と話しかけられ、到着15分で蘇芳はへとへとに疲れてしまった。
アーサーが蘇芳の腰を抱き支えていたが、身体に力が入らず崩れ落ちそうになり
「話の途中ですが失礼!」
蘇芳の顔色を見て、アーサーは有無を言わさず抱き上げ、壁際にある椅子へと連れて行った。
アーサーの首に手を回し蘇芳はヒソヒソ耳元で謝る。
「ごめんなさい!」
「いや、このまま見せつけてやろう」
「ううっ」
頬にキスされ真っ赤になる蘇芳
「ああギルボーンが羨ましい」
「私も日本人の恋人が欲しいよ」
「彼の友人を早く見つけて私が1番に口説いてみせる」
会員たちの羨ましそうな声が聞こえ
「わあ…」
「直輝捜索隊に3人追加だ! 3人それぞれが自分のツテを最大限に使って捜してくれるだろう」
「なんか希望が見えてきましたね」
「こうやって、イチャつくのもなかなか良い作戦だろう?」
クスクス笑う蘇芳の額にアーサーはキスを落とした。
「辛いだろうが、そうやって可愛く笑っていなさい… それと私にもキスを」
「…はい」
蘇芳は言われるがまま、アーサーの耳の下にキスをし、薄っすらと頬を染める。
「ああ羨ましい!」
会員の誰かがまた、そう言うのが聞こえ蘇芳はニヤニヤする。
椅子に座っていても絶えず誰かが側に来て、蘇芳は微笑みを顔に貼付け、手の甲にキスされても黙って受け入れた。
「私はスコットランドで彼を見つけたかも知れない」
「Mr.ハサウェイ?」
小太りで愛想の良い、初老の紳士が自慢げに言う
「面白いショーに可愛い日本人が出演していると友人に誘われてね」
「ショー? 直輝ですか?」
ハサウェイは蘇芳に注目されて嬉しそうに微笑む。
「それが私は情報ダケ受け取って、ショーは見てないからね何も言えないよ」
Mr.ハサウェイはアーサーに小さく頷く。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
時々女体化する話〜蜂に刺されたら女の子になりました〜 『男でも女でもお前が好きだ!大好きだ!』 (BL/TS)
Oj
BL
特殊な蜂に刺されたことで、女の子になったりならなかったりする話。全体的に下品なギャグ小説です。時々エロが入りますが、女体でイチャイチャしたり男同士でイチャイチャしたりします。基本BLです。
男同士の恋愛に満足していたり戸惑ったりしているところにパートナーが女体化して益々複雑化する関係を楽しんでいただけたらと思います。
第三部までありカップリングが別れています。
第一部 木原竹彪(キハラタケトラ)✕黒木彩葉(クロキイロハ)…大学生、同棲中の同性カップル
第二部 木村梅寿(キムラウメトシ)✕柏木楓(カシワギカエデ)…高校生、同性カップル
第三部 木村松寿(キムラマツトシ)✕佐々木紅葉(ササキモミジ)…大学生、竹彪と彩葉の友人
でお届けします。
『18歳未満閲覧禁止』という作品の中にこちらの18禁短編を載せています。
※女体化するキャラ全員、女性の月のものがきます。苦手な方はご注意下さい
学祭で女装してたら一目惚れされた。
ちろこ
BL
目の前に立っているこの無駄に良い顔のこの男はなんだ?え?俺に惚れた?男の俺に?え?女だと思った?…な、なるほど…え?俺が本当に好き?いや…俺男なんだけど…
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
俺と父さんの話
五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」
父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。
「はあっ……はー……は……」
手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。
■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。
■2022.04.16
全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。
攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。
Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。
購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる