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16話 落胆
しおりを挟むオエスチ侯爵に紹介されたその日の夜、トーリアが異変を感じたのは晩餐会が始まるまで、他の招待客たちと控えの間で待ち時間を潰している時だった。
昼間はデビュタントたちを連れて、大奥様に媚びを売りに来ていた人たちが、距離を置いているように見えた。
オウロ公爵夫人がそっとトーリアと大奥様に耳打ちをする。
「昼間の… フェリア―ド家の弟さんとの一件を、招待客の誰かが聞いていたらしく、アッと言う間に広まってしまって…」
トーリアは息を呑み青ざめる。
<ソレは… 私がトパーズィオの思惑通り、招待客たちにふしだらな尻軽扱いされているというコト?!>
視界の隅に入った義母とヘメージオを見ると、2人も青ざめて孤立している様子だった。
側にはトパーズィオが勝ち誇った顔で、オエスチ侯爵の逞しい腕に取り付いていた。
「私は部屋に戻った方が良いようですね…」
トーリアが2人にダケ聞こえるよう囁くと、大奥様がギュッと腕を掴む。
「いいえ、ダメです! こういう時こそ堂々としていなければ、噂は事実ではないと弁解する余地さえ自分で潰してしまいますよ」
厳しい口調で諭す大奥様にトーリアは一瞬瞠目し、苦し気な顔で頷く。
「はい」
「可哀そうだけどアナタの弟はもう… 良い条件の相手とは結婚出来ないね、あんなに口が軽くては危なくて妻には出来ないと他の招待客たちが警戒してしまっている」
大奥様と公爵夫人がトパーズィオを見つめる。
「上の弟のヘメージオはどうでしょう? 彼は本当に優しくて努力家で賢い紳士なのです」
義弟を心配するトーリアを注意深く観察するように見つめる大奥様。
「…彼は跡継ぎだからまだ見込みはあるね」
「伯母様がそう言うなら間違いないですよ」
公爵夫人が慰めるようにトーリアの腕をトントンと叩く。
もう一度フェリア―ド家の家族を見ていると、オエスチ侯爵と目が合うがサッと視線を逸らされトーリアは憤りを感じる。
<昼間、心地いい瞬間を共有したと感じたのは間違えだったのだ!! オエスチ侯爵と関わったせいで別の面倒ごとに巻き込まれてしまったし!!>
縁結びを目論む大奥様と公爵夫人に振り回され、元婚約者と目と目ダケで意思の疎通をした時、心が躍り嬉しいと思った。
当時は平気なフリをしていたが… 昔、ヴィトーリアはオエスチ侯爵邸の迷路で "汚い子供" と陰口をたたかれ深く傷ついた。
『とにかく汚い子供だった、顔も髪も泥みたいな茶色で…それに馬糞臭そうだったしゾッとした』
父カルネイロにオエスチ侯爵の長男と婚約話が決まったと告げられた時、子供ながら胸がドキドキして嬉しかった… まだ会ってもいない相手に憧れたり… 好きになったりして… 幸せな夢を何度も見た。
<現実では元婚約者と会う度に、心を粉々に打ち砕かれるなんて… 余程相性が悪いらしい>
もう、苦笑いさえ出来ないほどトーリアは憔悴していた。
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