上 下
12 / 19

10話 保護者

しおりを挟む

 オルテンシアとタリオの結婚を報告する手紙が、アルボル伯爵邸に届いたその日のうちに… 王都にある、アレールセ子爵家のタウンハウスに、シプレスは怒りを隠せないようすであらわれた。

「どういうことだ、オルテンシア?! 保護者の僕が許可していないのに、勝手に結婚するなんて… これだから、世間せけん知らずの無知むちなオメガは…! こんな結婚は、王国法では許されていないぞ?! 僕はお前たちの結婚を無効にするつもりだ!」

「人の家に突然、押しかけて来て… ずいぶんとえらそうに威張いばりちらしてるね…? たとえあなたが僕の義兄でも、こんな無礼は許せないよシプレス! あなたは恥ずかしくないの?!」
 ふんっ! 大バカのゲス野郎!! お前みたいなやつを、何で僕は好きになったのか、自分でも理解出来ないよ! 昔の自分に教えてやりたい! コイツは顔が地味だから、真面目そうだとだまされてしまったけれど… 本当は中身が腐ったマヌケだと!!

 胸の中では真っ赤に燃える、怒りの炎がうずまいていたが、そんな感情は顔には出さず… オルテンシアは冷ややかに、シプレスの無作法を指摘した。

 オルテンシアに侮辱ぶじょくされたが、シプレスは自分が、無礼なことをしているという自覚があり、顔を真っ赤にして反論はしなかった。

「アレールセ子爵! あなたまで、どうかしていますよ?! 成人前のオメガが結婚するには、王国法で保護者である僕の許可が必要だと… それぐらいのことは、あなたでも知っているでしょう?!」

 意地悪な笑みを浮かべて、シプレスはバカにするように、アレールセ子爵タリオを見る。

 タリオは隣に座るオルテンシアに、微笑みかけてから… 『だいじょうぶだよ』 と安心させるように手をにぎると… シプレスの安い挑発ちょうはつにはのらずに、静かに答えた。

「お言葉ですがアルボル伯爵、私は正式にオルテンシアの保護者に、許可をもらってから結婚をしました」
 
「だから、僕が保護者だとっ……」

 反論しかけたシプレスの前に、タリオは指の長い大きな手をあげて、言葉をさえぎった。

「アルボル伯爵、私は先代伯爵が生前、遺言書ゆいごんしょを新しく用意したことを、聞いていました… 当時、学園生だったあなたを王都へ残して、伯爵夫人の療養のために、田舎の伯爵領へオルテンシアと3人で、暮らし始めた頃の話です」

「なっ… それが何だというのですか?!」

「先代伯爵は、あなたと離れて暮らすことで、あなたの成長を自分の目で観察できないと、不安に思われたようです… 実際にあなたは、婚約者のオルテンシアと婚約破棄をして、別のオメガを妻にむかえたわけですし…?」
 安い挑発ちょうはつのお返しに、タリオはチクリッ… とシプレスをした。

 オルテンシアの父、先代伯爵は… タリオの話のとおりシプレスに不安を感じて、“もしもの時” を考え、遺言書を用意していたのだ。

 王国法で弱者とあつかわれ、ほとんど権利を持たないオメガでも、オルテンシアの意志を、最大限に尊重して欲しいと先代伯爵は願っていた。 
 そこで… オルテンシアが望んだ時に、父親の遺言書を使えるようにと… オルテンシアあてに遺言書を残す契約を、弁護士と結んでいた。

「お父様はその… “もしもの時”のために遺言書に、僕の保護者を… 僕のお母様の弟で、僕の叔父にあたるプルガル侯爵様にすると、指名していたんだよ」

「保護者を指名した?! プ… プルガル侯爵だって…?!」

「私はプルガル侯爵にオルテンシアとの結婚を求め、許可をもらった!」

 静かで落ち着いているが、タリオはとても力強い声でシプレスに言った。


 先代伯爵と契約を結んだ弁護士は、伯爵夫妻が亡くなり… 流行病はやりやまいがおさまるとすぐに、田舎の伯爵領で療養するオルテンシアに会いに来て、オルテンシアの希望で遺言書を開封したのだ。

 シプレスが裏切らなければ、オルテンシアは遺言書を誰にも見せずに、破棄するつもりだった。
 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初めてできた恋人は、最高で最悪、そして魔女と呼ばれていました。

香野ジャスミン
BL
篠田 要は、とあるレーベルの会社に勤めている。 俺の秘密が後輩にバレ、そこからトンでもないことが次々と…この度、辞令で腐女子の憧れであるBL向上委員会部のBLCD部へと異動となる。後輩よ…俺の平和な毎日を返せっ!そして、知らぬ間に…BLCD界の魔女こと、白鳥 三春(本名)白鳥 ミハルにロックオン!無かった事にしたい要。でも居場所も全て知っているミハル。声フェチだと自覚して誤解されるも親との決別。それによって要の心に潜む闇を崩すことが出来るのか。※「ムーンライトノベルズ」でも公開中。2018.08.03、番外編更新にて本作品を完結とさせていただきます。

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

アルバの為に。

めちゅう
BL
勇者×農民

処理中です...