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1話 幸せな日々

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 アルボル伯爵夫妻には、容姿ようしは地味で平凡だけど、とても優しい一人息子、オメガのオルテンシアがいた。

 残念なことに王国法で、オメガは男子でも爵位の継承が許されていない。 
 そこでアルボル伯爵夫妻は、仕方なく親戚の中から… とても勤勉で学園でも優秀だと評判の、アルファの男子シプレスを養子にむかえ、伯爵家の後継者として大切に育てることにした。


「シプレス… お前が成人したら、義弟のオルテンシアと結婚して… このアルボル伯爵家を2人で守ると約束しておくれ!」
 
「お約束します、父上! 伯爵家もオルテンシアも、僕に任せて下さい!」

「ふふふっ… シプレスは本当に賢くて素敵な子ね! あなたとならきっとオルテンシアも幸せになれるわ!」

「はい、母上! 僕はオルテンシアが大好きですから、必ず幸せにすると約束します!

 オルテンシア本人も、義兄のシプレスのことが好きになり… 自分は優秀で優しい義兄シプレスの、婚約者で恋人なんだと、オルテンシアは自慢に思うようになった。

「シプレス義兄様は僕のことが好き?」

「ああ、もちろん好きだよ! 可愛いオルテンシア!」

 シプレスは伯爵邸の庭園で、自分たちのまわりに、人がいないことを確認すると、素早くオルテンシアの唇にチュッ… とキスをした。

「もう! お義兄様ったら… こんなところで恥ずかしいよ! ふふふっ…」
 嬉しい! シプレス義兄様が僕の恋人だなんて! こんなに素敵なアルファが、僕の将来の旦那様になるなんて!! 神様ありがとうございます!!
 
 ポッ…… と頬を赤くしたオルテンシアはキスをされた唇を、手のひらで隠してニコニコと笑った。

「いいか… よく聞くんだぞ、オルテンシア?」

「んんん? シプレス義兄様、なぁに?」

「僕が学園にいる間に、浮気なんかしたら許さないからな?!」

 シプレスは怖い顔で、オルテンシアに警告した。

「浮気なんて… 僕がするわけ無いでしょう?! もう、ひどいよ兄様ったら!!」
 それに… 浮気なんて出来るわけないじゃないか! だって、僕は身体が弱いお母様について、空気が良いアルボル伯爵領の田舎に行く予定だから!
 そういうシプレスお義兄様こそ、王都の学園の寮に残るから… お義兄様の方が出会いや誘惑がいっぱいあって、浮気しそうで心配なんだけど?! 

「わかったよオルテンシア… 僕だけ1人で王都に残るのは寂しいから、手紙を書いてくれるかい? お母様やお父様のことをたくさん書いてくれよ?」

 母が田舎へ療養をしに行くなら、当然愛妻家の父も行くことになっている。

「うん、もちろんいっぱい書くよ! ちゃんと全部読んでよ?! それと返事も出してね?」

「わかっているよ、僕のオルテンシア! 愛しているよ」

 シプレスは素早く自分たちのまわりを見て、誰もいないのを確認すると… もう一度オルテンシアの唇にキスをした。


「僕も愛してる、お義兄様!」


 愛するシプレスから離れ…
 伯爵夫人の療養のために向かった田舎のアルボル伯爵邸で、オルテンシアは悲劇に襲われる。





※混乱しそうですが、養子でも実の兄弟でなければ、王国法で結婚できる設定としてあります。
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