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42話 目隠し2

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 ブラインドを下ろし、室内が見えないように目隠しされた社長室へ… フユメはふらふらと歩いて行く。

「おい!」

「・・・・・・」
 平沢に腕をつかまれ、フユメは無言で振り払い… 真っ直ぐ社長室へと向かう。

「バカ! 止めとけよ… お前が行ってどうするんだよ?!」
 フユメが社長室へ乗り込もうとしていることに気付いた平沢は、あわてて細い腕をつかみ引き止めようとする。

 数日前… 
 平沢は嫌がるフユメを社内で強引に口説こうとしていたことで、社長のカイリにフユメには近づくなと、厳重注意をされた。

 それが原因で※出向も途中で取り止めとなり、自分の評価がガクンッ… と下がってしまい、平沢はフユメを逆恨みしていた。

 そこで当のフユメが姿を見せ、アルファらしい傲慢さを抑えられず、こりずに平沢は嫌がらせをしたのだ。



「放せよ!」
 平沢につかまれた腕を振りまわして抵抗するが… フユメよりも腕の太さも身体の大きさも勝る、アルファの男の手を振りほどくのは難しかった。

「おい! 落ちつけって!」
 自分が再度フユメに嫌がらせをしたと、カイリに知られれば…
 『出向を取り止め』 どころか、平沢は会社をクビになりかねないと、ようやく思い至った。

「うるさい!! バカはアンタだ―――!! 僕がオメガだと思って、セクハラして!! 放せよバカ!! アンタのフェロモン気持ち悪いんだよ!! ここまで言われないと分からないの?!」

 カイリの元へ早く行き、社長室で元妻アリサと何をしているか確かめたいのに、邪魔をする平沢が憎くて、憎くて、たまらなくなり… フユメは日頃の鬱憤うっぷんを込めて叫んだ。

 ザワザワと忙しそうに働いていた、社員たちがギョッ… とフユメの叫び声に反応し、オフィス中の話し声がピタリと止む。

「放せって言っているだろう?!」

「この…っ! オメガのくせに生意気な…」
 腕を振りまわし爪を立てるフユメに、平沢はカッ… と腹を立て、増々つかむ手にギリギリと力を加えた。

「平沢さん、放してあげなよ…! 朝日君が言う通り、これはセクハラだよ?!」
 側で見ていたベータ男性が、不快感をあらわに平沢を非難した。

「そうよ! 朝日君が可哀そうだわ… オメガだからって、本当にひどい言い方!」
 隣にいたベータ女性も、嫌悪感で顔をしかめて平沢を非難した。

 少し前まで将来有望だったアルファの平沢は、ベータの社員たちにちやほやとされていたが… セクハラ行為と差別発言で、オフィス中の女性とベータ社員を一瞬で敵に回してしまった。


「平沢さん、何をしているのですか? 今すぐ朝日君を放して下さい!」
 ヒロキが自分の席から離れ、平沢をにらみながら命令口調で、冷ややかに言い放つ。

「いや… だから、こいつが社長室へ行こうとするから、オレは礼儀を教えてやろうとして」
 パート社員でも社内で人望の厚い、社長の義弟ヒロキににらまれ、平沢は苦しい言い訳をして、あわててフユメの腕を放した。

 平沢から解放され、まっすぐ社長室へ向かうフユメ。

「あっ! ほら、ヒロキさん! あいつ絶対、社長の邪魔をする気ですよ?!」
 再び平沢はぐだぐだの言い訳を重ねる。

「従業員が社長に会いに行って、何が悪いのですか?」

「でも、あいつは… 社長の元奥さんが会いに来たと教えてやったら、なんか勝手に嫉妬して… 社長室に乗り込もうとしているから!」

「ああ、平沢さんは… いくら口説いても朝日君が、君の相手をしないから、そういう嫌がらせをしたんだ?」
 ヒロキの冷ややかな視線が、軽蔑の眼差しに変わる。

「違っ… 違いますよ!! オレは、あいつにうちの社長に惚れても相手にされないと、教えてやっただけで…」
 顔を真っ赤にして、必死で否定する平沢を周りで見ていた社員たちは“かっこ悪いゲス野郎”と心の中で平沢にレッテルを貼った。

「相手にするかどうかは、カイリさん自身が決めることだと思うけどね? 君は何時から、カイリさんになったの?!」




 フユメは社長室の前まで来て、ドアノブを握り、一呼吸おいてから開いた。






※出向→他社に籍をおいたまま、働きに来ている。
(平沢がクビになるとすれば、籍がある会社の方になる)
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