41 / 51
40話 母とケーキ
しおりを挟む母の会社近くのカフェでケーキセットを食べながら、フユメは早くカイリと番になりたいから、約束は撤回して欲しいと母に交渉した。
「ダメね! ダメ!」
チーズケーキを口に運びながら、母はフユメの話を却下した。
「母さんっ!」
<2回もダメ! て言った!>
「ダメよ! カイリさんに相談しなさい、フユメ」
「カイリさんに言っても、母さんとの約束があるからダメだって… だから母さんに相談しているんだよ!」
「私が言いたいのは、なぜあなたが焦って番になりたいのかを、カイリさんともっと話し合いなさいと言ったの」
母もカイリと同じく、正論でフユメを諭した。
「それは…」
「フユメはなぜ、急いでカイリさんと番になりたいの?」
顔を上げ、母はチーズケーキから視線をフユメに移した。
「・・・・・・・」
<なんか、本当に僕だけ悩んで焦って不安がって… バカみたいだ! 僕が子供で未熟なのがすごく痛いよ… あああっ! モヤモヤするぅ―――!!!>
フユメは下を向いて… まだ一度も手をつけていない、自分のマロンケーキをにらむ。
「フユメ?」
「奥さんとカイリさんが、会社で会っているのを見て… でも、カイリさんはそのことについて何も話してくれないから…」
コーヒーカップをギュッとつかむフユメの手を、母が一回り小さな手で、包み込むように触れた。
「実際に私が見たわけではないから、わからないけれど… 話だけ聞くと、カイリさんは自分に何も疚しいところが無いから、フユメの前で誤解が無いよう、堂々と会っていたのではないかしら? その“元”奥さんと」
母は“元”を強調した。
「ああ…?!」
フユメの目から鱗がポロリと落ち… 真実のようなものが見えた気がした。
「でも、カイリさんの奥さんって、いかにも良家のお嬢さんで… 僕よりずっとお似合いに見えたんだ… 仲も良さそうだし…」
「あら、あなた自身の格から言えば、少しも負けてないわよ? 確かにうちはカイリさんのように、名家で富豪というわけではないけれど… でも、あなたのようにオメガの身で大学の奨学金もらってる学生なんて初めてだって、高校時代の担任の先生から褒められたのを忘れた?」
中学入学前に受けたバース性判別検査で、フユメがオメガと判明し…
高校からオメガの生徒が多く在籍する私立校に進学した。
何人もオメガの生徒を送りだした、学校の教師が言ったのだから、フユメに対する評価は間違いない。
「母さん…」
フユメの母は実家の格ではなく、フユメ自身の能力にもっと自信を持てと言っているのだ。
「“蝶よ花よ…” と甘やかされて育てられた、その辺のお嬢さんに、うちの賢くて綺麗な愛息子が、簡単に負ける気はしないけど?」
コーヒーを美味しそうに飲みながら、母はケロリと自慢げに言う。
「勝ち負けの問題では…」
「そう?」
「そうだよ!」
「それよりフユメ、あなた勉強はしているの? 恋愛に夢中で学業をおろそかにして、格好悪く留年するようでは、それこそカイリさんに捨てられるわよ?」
「う゛っ… そ、それは大丈夫だよ!」
痛いところを突かれて、フユメはギクッ… とする。
自分のチーズケーキを綺麗に食べ終えた母は、フユメのマロンケーキに狙いを定めた。
0
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
【完結】終わりとはじまりの間
ビーバー父さん
BL
ノンフィクションとは言えない、フィクションです。
プロローグ的なお話として完結しました。
一生のパートナーと思っていた亮介に、子供がいると分かって別れることになった桂。
別れる理由も奇想天外なことながら、その行動も考えもおかしい亮介に心身ともに疲れるころ、
桂のクライアントである若狭に、亮介がおかしいということを同意してもらえたところから、始まりそうな関係に戸惑う桂。
この先があるのか、それとも……。
こんな思考回路と関係の奴らが実在するんですよ。
国王陛下の夜伽係
水野酒魚。
BL
新国王に即位したコラサオンは、幼馴染みで乳母の子であるネーヴィエスを『夜伽係』に任命する。
年若い国王(28)×ノンケの衛士長(40)。
#闇BL2023企画に向けて書かれた作品です。救いとかそんなモノはありません。
※欠損表現があります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
良い子な二人の内緒ゴト♡ ~水越さんちご兄弟のえっちなお風呂タイム~
そらも
BL
それぞれの学校でも成績優秀品行方正でクラスメイトや先生やご近所さんからもすこぶる評判の良い、水越(みずこし)さんちの仲の良いご兄弟、兄で高校生の怜時(れいじ)くんと弟で中学生な翼(つばさ)くんの『とってもと~っても仲良し♡』な、両親にも内緒な秘密の夜のやり取りのお話です♪
タイトルの通り仲良しな実の兄弟の二人がお風呂の中でこれでもかとイチャイチャスケベえっちしてるだけのお話となっておりますので、そこのところどうぞご注意を!
※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。
※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
王太子の秘密儀式~父王にはめられた⁉
金剛@キット
BL
王太子アニマシオンは学園を卒業し成人の儀を終えた。その夜、国王に呼び出され、なぜか媚薬を盛られてしまい、秘密の儀式を受けるよう命令される。
国王に従い、アニマシオンは秘密の扉を開き地下にある“秘儀の間”へ行くと… そこには美しい裸体をさらしたオメガの少年が待っていた。
国王に媚薬を盛られたアニマシオンは獣のように発情し、名前も知らないオメガの少年を、本能のまま抱き“番”にしてしまう。
少年の名はカジェ。王国にたった一人しか存在しない大賢者の弟子だった。
😘お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
😡エロ濃厚です! ドスケベが嫌いな方には向かないお話です。ご注意を!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる