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40話 母とケーキ

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 母の会社近くのカフェでケーキセットを食べながら、フユメは早くカイリと番になりたいから、約束は撤回して欲しいと母に交渉した。


「ダメね! ダメ!」
 チーズケーキを口に運びながら、母はフユメの話を却下した。

「母さんっ!」
<2回もダメ! て言った!>

「ダメよ! カイリさんに相談しなさい、フユメ」

「カイリさんに言っても、母さんとの約束があるからダメだって… だから母さんに相談しているんだよ!」

「私が言いたいのは、なぜあなたが焦って番になりたいのかを、カイリさんともっと話し合いなさいと言ったの」

 母もカイリと同じく、正論でフユメを諭した。

「それは…」

「フユメはなぜ、急いでカイリさんと番になりたいの?」
 顔を上げ、母はチーズケーキから視線をフユメに移した。

「・・・・・・・」
<なんか、本当に僕だけ悩んで焦って不安がって… バカみたいだ! 僕が子供で未熟なのがすごく痛いよ… あああっ! モヤモヤするぅ―――!!!>

 フユメは下を向いて… まだ一度も手をつけていない、自分のマロンケーキをにらむ。

「フユメ?」

「奥さんとカイリさんが、会社で会っているのを見て… でも、カイリさんはそのことについて何も話してくれないから…」

 コーヒーカップをギュッとつかむフユメの手を、母が一回り小さな手で、包み込むように触れた。

「実際に私が見たわけではないから、わからないけれど… 話だけ聞くと、カイリさんは自分に何もやましいところが無いから、フユメの前で誤解が無いよう、堂々と会っていたのではないかしら? その“元”奥さんと」

 母は“元”を強調した。

「ああ…?!」
 フユメの目からうろこがポロリと落ち… 真実のようなものが見えた気がした。

「でも、カイリさんの奥さんって、いかにも良家のお嬢さんで… 僕よりずっとお似合いに見えたんだ… 仲も良さそうだし…」

「あら、あなた自身の格から言えば、少しも負けてないわよ? 確かにうちはカイリさんのように、名家で富豪というわけではないけれど… でも、あなたのようにオメガの身で大学の奨学金もらってる学生なんて初めてだって、高校時代の担任の先生から褒められたのを忘れた?」

 中学入学前に受けたバース性判別検査で、フユメがオメガと判明し…
高校からオメガの生徒が多く在籍する私立校に進学した。

 何人もオメガの生徒を送りだした、学校の教師が言ったのだから、フユメに対する評価は間違いない。

「母さん…」
 フユメの母は実家の格ではなく、フユメ自身の能力にもっと自信を持てと言っているのだ。

「“蝶よ花よ…” と甘やかされて育てられた、その辺のお嬢さんに、うちの賢くて綺麗な愛息子が、簡単に負ける気はしないけど?」
 コーヒーを美味しそうに飲みながら、母はケロリと自慢げに言う。

「勝ち負けの問題では…」

「そう?」

「そうだよ!」

「それよりフユメ、あなた勉強はしているの? 恋愛に夢中で学業をおろそかにして、格好悪く留年するようでは、それこそカイリさんに捨てられるわよ?」

「う゛っ… そ、それは大丈夫だよ!」
 痛いところを突かれて、フユメはギクッ… とする。



 自分のチーズケーキを綺麗に食べ終えた母は、フユメのマロンケーキに狙いを定めた。




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