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32話 来客
しおりを挟む仕事中、フユメは女性に呼び掛けられ、椅子から腰を上げた。
フユメのデスクは、出入り口付近にあるため、来客の際はフユメが社長室まで案内するようにしている。
今までは、身重のヒロキの仕事だったらしい。
「神田カイリさんはどちらに、いらっしゃいますか?」
「はい」
<あああ~っ! 見るからに仕事関係ではなくて、個人的な用件で来た女性だなぁ~? この人も、カイリさんの妻の座を狙って来たの?>
いかにもデートのために、気合いを入れて着飾って来たぞ!! って感じの、良家のお嬢様風エレガントな装いをした女性の姿を見て、フユメはピンッ…! と来て、うんざりする。
「受付でカイリさんは、こちらだと聞いたのですが?」
「はい、神田社長のお客様ですね? 社長室までご案内します、 こちらへどうぞ!」
「ありがとうございます」
フユメが女性にニコリッ… と微笑み、頬をひくひくとさせると、相手の女性は感じ良く礼を言った。
「・・・・・・」
<ああ、もう!! これで何回目だよ?! 僕が恋敵をカイリさんの部屋に送るのは!!>
離婚歴があっても、結婚相手としては優良物件の神田カイリには、この手の誘いが途切れること無く、どかどかと来るらしい。(ヒロキ情報)
<どうせカイリさんは、上手にアナタを追い返してくれるけどね~だ!!>
どこぞの令嬢の華奢な背中を…
フユメは子供っぽく、ベー! と舌を出してこっそり睨んだ。
女性を社長室へ案内し、フユメがデスクへ戻ろうとすると、平沢が見計らったようにフユメの後に付いて来た。
「なぁ、今の社長の客が誰か知ってるか?」
平沢は何となく意地悪そうに、ニヤニヤと笑いながらフユメに話しかけて来た。
「いいえ、知りません」
顔を合わせると、口説こうとする平沢に苦手意識を持っている為、フユメはなるべく目を合せないようにすることにしていた。
フユメがやんわり誘いを断っても、押し切って丸め込もうとするのが見え見えなのだ。
<もう、なんだよこの人! 自分がアルファだからって… オメガの僕を口説くのは当たり前だって顔するの、止めて欲しいよ!! 面倒臭い!!>
アルファ性の男性というだけでも、フユメは脅威を感じているのに、年上で社会人の平沢の方が経験値も高く話術が上手いせいで…
あれこれ話しかけられると、未熟なフユメはいつもどうして良いか分からず、パニックになるのだ。
「あの女性、社長の元奥さんだよ!」
「・・・っ?!」
不意打ちをくらいフユメは、驚いて平沢の顔を見上げた後、すぐに社長室へと視線を移し、カイリと客の様子を盗み見た。
<あっ?!>
女性はカイリの広い胸に手を置き、微笑んでいた。
相手に親密な態度を取られても、平気そうな顔をしてカイリは機嫌良く微笑んでいる。
<カイリさん、なぜ触れさせるの?!>
ドクッ… ドクッ… ドクッ… ドクッ… とフユメの心臓が、痛いぐらい激しく拍動する。
いつもならフユメ以外には絶対に許さないのに、カイリは元妻に許していたからだ。
社長室の中でガラス越しに見える2人は・・
愛し合う恋人同士のように、嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。
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