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29話 朝食2 カイリside

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 自分ではどうしようも無い、遺伝子の組み合わせが悪いからという理由で、妻と離婚した後…
 結婚前の期待が大きかった分、カイリ自身が思っていた以上に落胆と苦痛が大きかった。


『カイリさん! 私ねぇ、料理学校に通うつもりなの! カイリさんは和食と洋食のどっちが好き?』 

 フユメの手料理を食べるようになってから…
 昔、婚約者にたずねられた時、カイリはどちらとも答えられなかった時のことをよく思い出すのだ。

<今なら迷いなく、和食が好きだと答えるだろうなぁ… フユメが洋食よりも和食が得意だからだが…>

 フユメの母親が、和食好きで、それでフユメは和食料理が得意らしい。

 焼き魚の身を解して口に入れると、カイリはふかふかの白いご飯を頬張る。


<別れた妻を、愛してはいなかったが…>

 フユメが作った豆腐とワカメの暖かい味噌汁を飲みながら、カイリはふと考えた。

「・・・っ?!」

<いや… 今、考えてみると本当は愛していたのか? 子供の頃から婚約していた相手だから、思い入れもあったし… 結婚したらどんな夫婦になろうかと、彼女と話しながら夢をふくらませる時間が好きだった>

 婚約者とはいえ、未婚のオメガとカイリが2人っきりになることは許されず、定期的に両親が予約を入れたレストランで、食事をとりながら親交を深めていた。
 
<初夜で倒れた翌朝、白い病室のベッドで眠る彼女が、私のものにはならないと医師に告げられた時… 私は私のプライドを守る為に、愛していなかったから平気だと… 胸が痛んでも、とぼけて、どうでも良いフリをした> 

 味噌汁を置いて、ごはん茶碗を手に持つカイリの唇に苦笑いが浮かんだ。

「ふっ…」
<そうだ、あの頃の私は… アルファの傲慢なほど高いプライドが、惨めな自分を受け入れられなかった… 本当は泣きたかったくせに、強いアルファは泣いたりしないと…> 

 家族や友人知人に憐みの顔で『運が悪かったな』 と同情されたり、『次があるさ!』 と励まされたり…
 何よりも、彼女の両親に『娘が申し訳ない』と 謝罪された時、カイリは無性に腹が立ち、自分の心にこれ以上誰かが関わるのが耐えられなかった。

 カイリ自身も…
 カイリの元妻も… 
 じゅうぶん傷ついていた。

 "深く愛し合う前で良かったじゃないか?" と…
 惨めさを爆発させ、泣き崩れて前へ進めなくなるよりは、何倍もましだと、心に傷を負ったことなど、気付かないようにして、カイリは笑って妻と別れるしかなかったのだ。

 結婚生活に時間を取られることが無くなったから、会社を立ち上げ、妻の代わりに仕事を愛した。




「カイリさん? この魚… 鯖の塩焼きは嫌いだった?」

「え? 何が?」
 不意に声を掛けられカイリが戸惑っていると、心配そうにフユメはチラリとカイリの手元を見た。

「焼き魚… 嫌いだった? 鯖の醤油煮は好きそうだったから、焼いてみたけど?」

「んん?」
 焼いた鯖をつつきながら、途中で魚を見つめたまま、カイリが手を止めてしまっていた為、フユメは気にしているのだ。

「ああ! 美味しいよ! すまない、考え事をしていて… ふふふっ… 私は好き嫌いはあまりないから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

<おっと… いけない、いけない、余計なことを考えてしまった! 今まで考えないようにして来たのに、何故今さら私はこんなことを気にしているんだ?!> 

「何だ、そうか! 考え事の邪魔してごめんなさい!」

「いや、せっかく美味しいごはんを作ってもらったのに、他事を考える私が悪いさ! 今から鯖と白米についてじっくり考えることにするよ!」

「アハハハハッ―――ッ!! 考えるって、鯖と白米の何を考えるの?」

「産地とか?」

「ハハハッ!! もう、それは考えなくて良いから、嫌いじゃないなら食べてよカイリさん!」



 フユメの明るい笑い声を聞き、思わずカイリはニヤニヤと笑ってしまう。





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